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千葉・オートキャンプに行ってきました!

 娘が4歳になった。

 ”だから何”と言う人は子供を連れてあまり旅行に言った事が無い人では無いかと思う。現在日本において親と添い寝をする事を厭わなければ、大概子供の場合3歳までは上手くやれば無料で旅行が出来るのである。無料が確実に有料に変る瞬間。それが4歳と言う年齢なのである。

 3歳まで大概は無料。とは言っても油断をするとちょこまか追加料金を取られる。飛行機は例え2歳であったとしても、実際親の料金の1割程度が徴収される。これは航空会社によって正規料金の1割であったり、割引料金の1割であったりと差があるようである。

 事実娘が2歳の時グアムに友人の結婚式で出かけた時は確か2万円程度徴収された。無料って嘘ジャンとも思うが、やはり子供は手間がかかるしある意味親よりも迷惑をかけるのだから仕方が無い。と言えば仕方が無いのだが…… 飛行機が着陸する際の気圧の変化により2歳の娘とその隣に座っていた同年齢の子供は頭がおかしくなったようにゲラゲラ笑いはじめた。余りの奇声に口を押さえて拉致ったのだが、こんな事は序の口・良くある事である。子供を連れての旅行はトラブルが多く予定通りに行く事はまず無い。どうしても手間がかかるから、面倒くさいから、小さい子供を連れて旅行に行かないと言う人は多いのかもしれない。

 ともあれ我が家の人間は誰も旅行が好きで、平成10年に”地域振興券”が娘に2万円配布された時は迷わず旅行会社の専用プランを予約した。2万円で大人2人、子供1人朝食・夕食付きの料金をまかなうと言う物だが、不況の中にも関わらず、当時そのプランはかなりの人気を博していた。

 近年発表された日本旅行業協会のレポートによると、子供が成人をするまでに10回以上両親と旅行をすると、キレにくい、協調性のある子供に育つ傾向があるのだと言う。子供が親との旅行を卒業するのは15歳前後。現在4歳の娘は国内・海外・陸・海・空を制し、7回もの旅行を経験している。親の目から見ていても、旅行を終えた後の娘は家でゴロゴロしている時よりも成長しているのが分かる。語彙が増え、物の名前を覚え、自分なりの経験値を増やして行く。4歳と言えば立派な”子供”なのである。色々と夏の予定を旦那と検討した結果、今回は予算の都合もあり、”オートキャンプ”に挑戦する事に決定した。

「みきちゃん。マザー牧場に行くんだよ!」
「ママ、マザー牧場って何だ?」
「簡単に言うと千葉にある観光牧場かな。行くまでに色々と勉強しましょ」

 何故マザー牧場を選んだのか、それはたまたま毎月送られてくるJAFの会報誌に載っていたからに他ならない。”普通よりもちょっとお得”私はこの単語に非常に弱い。

 取り寄せた資料を元に娘に説明をする。自分でテントを組み、ご飯を炊き、牛の乳を搾るのである。”ごちそうサマーキャンプ”と言うのが今回のツアーの名前である。全てのイベント費用込みでかかる費用は大人が7000円、子供が6000円との事であった。朝食・夕食付きでこの値段は安い! しかるべく、娘の頭にマザー牧場と言う単語がインプットされた。折りしも夏の季節。私は全然知らなかったのだが、マザー牧場はかなり大型の牧場であるらしく、テレビCMまでも頻繁に放送されていた。

「ママ、夜9時までやってるんだって!」
「そ、そうなんですか?」
「他にも”おジャ魔女ドレミ館”ってドレミちゃんのお家もあるんだよ!」

 事前に本人かなり行く気である。「今日は行かないの? 明日は行かないの?」と既にリュックを背中に背負い麦わら帽子を被った娘は私のスカートを引っ張る。

「今日はオモラシをしたからダメ」
「雨が降りそうだからダメ」
「うーん。惜しい今日は巨人が負けたからマザー牧場には行けないよ」

 色々と屁理屈を付けて、何度もパパの夏休みの時期に行く事を教えるのだが、まだ細かい時系列は理解できない…… 行く前に1つだけ決めておかなくてはいけない事があった。それはどう言う道筋を通ってマザー牧場へ向かうか、である。現在住んでいる神奈川県から千葉県のマザー牧場に行くには大まかに3つのルートがある。ぐるっと首都高を通って行くルートに別料金を支払って東京湾アクアラインを通って行くルート、そしてカーフェリーを利用して行くルートである。
 
「行きはアクアラインを使って、帰りはフェリーがいいと思うんだけど」
「どうしてだ?」
「色々と経験した方が楽しいでしょ。アクアラインも大分値下げされたし」

 オープン当時普通車が4500円程であったのが、現在は3000円にまで値下げされている。これで採算が取れるのかと言うと、全く取れない、借金だけが残ると言う事が現在の発表されているが、前述したカーフェリーとの価格競争によりやむ得ない事なのかもしれないが、実際にはアクアラインを降りた後も高速道路が続き更に1000円近い料金を徴収される事はあまり知られていない。(こちらは値下げされたと言う話は聞かない)現在日本一高い坪単価辺りの高速道路は東京湾アクアラインでは無く、それに続く千葉沿いの高速道路なのである。

 かくして盆の1週間前、お弁当のおにぎりを大事そうにバスケットに入れ、娘4歳の夏休み旅行は始まった。受け付け時間が10時からであるから、少し前に到着して牧場で少し遊んで…… と思ったが思いの外アクアラインに至る首都高速は渋滞しており、予定通りに車は進まなかった。東京湾アクアラインと違い首都高速は国内でも珍しい”元の取れている高速道路”であるそうだが、料金プール制により永久的に料金が徴収される事がほぼ決定し、更に値上げが申請されている。

「工事費用を全て回収した後は無料で高速道路を公開致します」

 政府にとって最初にした約束などゴミ屑程にも思っていないのであろうか、ここ数年ETCのゲートが増え高い投資を行った一部の車両が空いているゲートを抜けて行った。羨ましは思うが、新しい車を購入したばかりでとてもETC機器に投資を行うほどの余裕は我が家には無い。

「折角だから海ほたる寄っていこうよ!」
「え、あそこって何も無いんだろ?」
「何も無い事は無いよ。トイレ休憩もしたいし」

 海ほたる。それは東京湾アクアラインに作られた人工の島に立つパーキングエリアの事である。年末などはここで初日の出を見ようと言う人が増える為混雑する事で知られている。全5階建てのこの建物にはレストラン・売店などが軒を連ねており、買い物を済ませた後はこの地点で東京方面に戻る事も可能である。そうした場合は料金は片道分3000円以外徴収される事は無い。

 余談として、近年東京湾アクアラインの通行料金を逃れる為その前にある首都高速のパーキングエリアに車を止め一台の車に全員が乗ると言った事が社会問題として指摘されている。法的に取り締まる事は難しく、ある経済ジャーナリストは「最寄の空き地を駐車スペースとして借り上げ、駐車を認めるべきである」と理路整然と書いていたが、この問題が解決したと言う話は伝え聞いてはいない。個人的に言わせて頂ければ首都高速近辺にはパーキングエリアが少なく、渋滞で体が疲れてもそう簡単に休む事が出来ないのは事実なのである。唯でさえ少ないのに駐車スペースが前述の理由により減ってしまった場合はどうしようもない。「トイレに行きたいよー」と子供が叫んでも、「我慢しなさい」と言うしか他は無いのである。そうした中別の高速料金を支払って入る海ほたるは一事のブームが過ぎた今・丁度いいトイレ・スポットなのである。

 数年前に訪れた時と変らず、と思ったが店舗内の配置は多少変っていた。名物海ほたる焼きは専用のブースに移り、何やら不思議な”落花生・ソフトクリーム”やら”特製メロンパン”が売られていた。千葉の出身の人に話を聞くと、千葉の名産と言うとやはり”落花生”なのだそうだ。東京の名産? としては八景島シーパラダイスのイルカの人形なども売られていた。近所のデパートと左程変らない品揃えに娘は殆ど興味を示さず、5階の展望台さえも見る事無く海ほたるを後にした。

「やっぱり何も無いじゃないか」
「そりゃ何も無いと思っていれば、何も無いわよ」

 それでもバスツアーの客はかなりの数入っていた。誰しも「1度くらいは来てみようか」と思う物なのかもしれない。

 海ほたるを抜けた後の道路は今までの渋滞が嘘のよう。スカスカであった。あっという間にマザー牧場のオートキャンプ場に到着した。受付を早々に済ませ、テント設置の時間までお昼のお握りを食べてノンビリと過ごす。キャンプ場は平坦で、だだっ広い空き地と言った所であろうか。空には色鮮やかなトンボが飛び蝉の声が伸びやかに木霊する。娘は早くも虫取り網を持ってこなかった事を後悔し、素手でトンボを追いかけ回し始めたが、そう簡単につかまる筈も無い。

「じゃ、テント設営を開始しますので集まってください!」

 スタッフからの声がかかる。今回は食事の作成からテント設営・片付けまで自分達でやらなくてはならないのだ。とは言え我が家は誰一人としてテント設営をやった事が無いのみに関わらず、設営の戦力と成り得るのは旦那1人だけである。どうなる物か??? と他人事の様に思ったが、スタッフの方々が親切で全て手伝う訳では無く、節目節目で手を貸してくれた。ペグと呼ばれる鉄のピンでテントを固定し、数本の組み立て式の棒を使用してテントはあれよあれよと組み立てられて行く。中は思いのほか涼しく、地面の石などがきちんと除去されているお陰か、専用マットを敷かないでゴロゴロしていてもかなり気分が良い。

「初テントですねえ。みきたん調子はどうですか?」
「いい感じ」

 娘はテントよりも、やはり飛び回るトンボが気になる様である。トンボなど昔は捨てるほど見かけた物だが、今トンボの数は都会においては激減しているそうである。理由としては環境変化の悪化・農薬の大量使用により、幼生ヤゴの生育が上手く行っていないからであるそうだが、昔はトンボの大群の中で人差し指を上げていれば、自然とその上にトンボが止まり簡単に掴まえられた物だが、世の中は変った物である。現在トンボの数を増やす為、小学校などのプールで成長したヤゴを保護し成長を助けると言った運動が行われているそうだが、やはりプール掃除の際捨てられてしまうヤゴが圧倒的に多いらしく、まだまだ運動は軌道には乗っていないようである。

「トンボって何するの? 噛むの?」
「噛む事もあるけど、まあ、まず噛まないと思った方が。持つときは羽を持って、優しくしてあげて。トンボは蚊を捕まえてくれるいい虫だから苛めたりは絶対しちゃダメ。ちょっと遊んだら必ず離してあげてね」
「蚊を! いい子なんだねえ」

 結局、やはりトンボはそう簡単に掴らず、テント設営後は夕食に食べるカレーの付け合せのサラダの食材を取りに畑へと向かう事となった。こちらでは無農薬農業を実施の為、畑のあちこちにマリーゴールドが植え、アブラムシ対策を行っていた。ミニトマト・ナス・きゅうりなど娘を含めた子供達は大喜びで籠に運んでいく。地上に結実する野菜などはかなり見慣れている娘ではあったが、地下に出来るニンジンの葉などは全く見たことが無い娘は、雑草? とばかりニンジンの葉を踏んで行く。スタッフに確認を取り、ニンジンを数本抜かせて貰う。柔らかい黄緑色の葉を心配げに引っ張る娘。かくして出て来たのは葉30cmに対し、実3cm程のかなり寂しいニンジンの姿だった。

「あららら。これは小さなニンジンだ」
「まだニンジンは時期じゃないんだよね。自宅に持って帰って又植えたらいいよ」

 ニンジンの葉っぱってこんな形なんだ、と調子に乗って更にニンジンを掘り当てる娘。楽しそうである。あまり掘られても牧場の迷惑となるので、早々に畑を後にして調理を開始する。本日の夕食はキャンプの定番”カレー”である。旦那は竈に火を起こし、飯盒に米を研ぐ。最近のキャンプ場では飯盒で米を炊かず炊飯器を使用する場合もあるそうだが、こちらでは全員失敗を覚悟して米を飯盒で炊く。初め強火で後ぱっぱ。蓋がガタガタ言わなくなったら開けて下さいと言った説明が最初にあるものの、炊けているかどうかはやはり開けてを確認する。中は程よく焦げた美味しそうなご飯である。

「次はカレーをお願い!」

 玉ねぎ・ニンジン・肉・ジャガイモを籠に入れて渡す。親がバタバタとメインに取り掛かっている間に娘はレタスを契り、スタッフが実施するドレッシング教室に出席する。言われた通りの分量をボールに入れ混ぜるだけなのだが、娘の目はかなり必死である。味見も何度も何度も行い最終的な決断を親に求めて来る。本日のドレッシングは和風ドレッシングのようで、持ってきたドレッシングは子供が作った物らしく酢が少ないちょっと甘めの優しい味がした。

「いい感じ。じゃ、これで後は食べるだけだね」

 料理はあっという間に完成した。今回のキャンプに参加しているのは全部で20家族。いつもよりは少ないそうである。そのどの家族よりも早く完成したのだが、全てを食べ終えたのはどの家族よりも遅かった。娘はお代わりこそしなかったものの、1人でモリモリ全てを食べ終えた。普段は1人っ子と言う事もありどうしても食べるのが遅いのだが、やはり綺麗な空気の中、食が進んだようである。食事が終った後は皆で洗物をして後片付け。この辺りから大分他の子供たちとも仲良くなって来たらしく、娘は親が作業をしている間スタッフを囲んで子供同士で遊ぶようになって来た。順応力が高い。一応自己紹介などをして子供同士名前を覚えあっているようである。

 カレーは大量に残ったが、これはもう遠方に来ているのだから持ってかえる訳にはいかない。しかしご飯はもしかしたら夜食で食べるかもしれない…… 貧乏性の私は残ったご飯に塩を振りサランラップで包んでお握りにした。食べるかどうかは分からないけれど、なんだかそうせざるを得ないような気持ちに襲われたのだ。

「発泡スチロールに入れておけば明日まで大丈夫ですよ」

 それは心強い。
 片づけが終った後はマザー牧場に特別に設置された”おジャ魔女ドレミ館”に顔を出す。”おジャ魔女ドレミ”とは現在幼稚園生を含む年少者に受けている女の子向けのアニメである。殆どテレビを見せない我が家の娘であっても大ファンであり、CMによってその存在を知った娘にとっては今回の旅の目的の1つでもあったようである。

 特設コーナーの他にドレミちゃんと夕食を取れるプラン、オヤツを食べるプラン、歌を歌うプランなどがあるようだが、こうしたプランは殊のほか人気であり残念ながら我が家は予約を取る事が出来なかった。マザー牧場の人間に話を聞くと、正に「おジャ魔女ドレミ さまさま」だそうで、それだけを目的で牧場を訪れる人が後を絶たないのだそうである。アニメの放映が始まって早3年。「こうしたアニメの人気は3年毎に栄枯盛衰があるので、来年は分からないけれど」とスタッフは結んでいたが、特設コーナーには各キャラクターのオブジェクトに名前が書かれたボールプール、滑り台、ビーズコーナーが設置されていた。親には何が楽しいのか、他の滑り台とどう違うのかどうしても違いが分からなかったが、娘は1時間程力一杯遊び、おジャ魔女ドレミ館をこんな一言を残して後にした。

「ドレミちゃんが居なかった」
「え? 居たじゃない?」
「あれはどう言うこと? みきはドレミちゃんに会いたくて来たのに」

 どうやら娘は特設コーナーがドレミちゃんの家だと勘違いしたようなのである。しかも飾ってある人形は生きていないと言う迷惑な予備知識込みで。

「変だよママ。ここはきっとドレミちゃんのお家じゃないんだ! 間違えてしまった!」

 それはそうだろう。一々説明するのも面倒なので、娘の誤解はこのまま置いておく事にした。後々の処理は明日移行に時間があったらする事にしよう。

 テントに戻った後は早々にシャワーを浴びに行った。娘は旦那と一緒にシャワー室に入ったのだが、うっかり娘の下着+私の下着の代えを忘れてしまったのである。

「ごめーん。みきたんのパンツ忘れちゃった。取りに行ってくるよ」
「いいよ別に」
「じゃ、ノーパンでいいです。履かないで出てきてください」

 自分の分もあるので取りに行きたかったのだが、こうなると仕方が無い。娘は「どうしてパンツが無いの??」と怒りながらシャワー室から出て来た。「テントに戻ったらすぐあるから」と説明し、私もシャワー室の中へ入ってノーパンで出て来た。笑い顔を隠しながら足早にテントへと向かう。大丈夫。濃い目の色のスカートを履いているから透ける事は無いし、何しろ今は夜。人の数だって昼間より全然少ない。

「しかし恥かしい。スースーする。早くテントに戻ろう」
 
 マザー牧場は平地に比べ高度が300m程ある為気温は平地に比べ3度程低いそうである。しかし吹き荒れる風の中、体感温度はむしろクーラーの中に居る程冷たかった。「いつもこんな感じですよ」とスタッフは笑いながら、各テントのぺグにハンマーを入れていた。強い風でテントが飛んでしまわないように、メンテナンスして回っているのである。旦那は中々寝付けないらしく、携帯のマージャンで遊んでいたが私と娘は溶けるように眠りに付いてしまった。明日の朝は6時起きである。少しでも体力を温存しておかないと。

 朝目が覚めるのは早かった。時計を見ると時刻はまだ5時半を少し過ぎたばかり。テントに直接日光が差し込むせいか、明かりも無いのにテント内はとても明るい。パジャマから服に着替え、歯を磨きに行く。旦那と娘は2人仲良く毛布に包まって寝ていた。旦那の話によると夜冷えてきた為毛布を下に敷いて娘を寝かしつけたらしい。

「お前ゴーゴー・イビキかいて凄かったぞ!」
「嘘ばっかり」

 朝機嫌良く起き出した娘はオモラシをしていなかった。朝は牛の乳搾りのイベントが待っている。私はと言うと貧血が酷いので娘と旦那だけがイベントに参加した。今回参加したツアーは全てが任意参加であり、強制では無い。朝早いイベントのせいか、休憩を取っている人間の数は思ったより多かった。朝食抜き、バナナを1人一本食べるだけで牛の居る最寄の牧場へと歩いて進む。聞いた所によると娘は怖がりながらも立派に牛の乳を搾っていたのだという。後で撮った写真を見ると真剣な眼差しで牛の大きな乳を見つめ、必死に牛乳を搾る娘の姿があった。

「ママ。みき美味しい牛乳たーくさん取って来たから安心してね」
「ありがとう」
「どういたしまして」

 乳絞りが終わり、朝食作りが始まった。朝は手作りサラダに牛乳、ブルーベリー・ジャム、バター、そして空き缶で作るパンである。既に摘んであるブルベリーに砂糖を加え少しづつ煮詰めていく。手間はかかるが味は市販のジャムの比では無い。パンに溢れるほどかけて食べてしまいたくなる程美味しい。バターはまだ脂肪分を分離していない牛乳をしようし、専用のプラスチックケースを何度も揺らす事によって作成する。暫らく上下に振っていると乳精と脂肪分が分離するので、これで出来上がりなのだが実際の製品はこうして出来た脂肪分を濾して塩分を追加して完成する。娘はバター作りの参加は2度目だが、今回は食べられない分離した乳精をゴクゴク飲んでいた。結構いけるようである。

「ママこれ美味しい。飲んでみたら」
「いいです。なんだかちょっと怖い気がするから」
「おいしいのに」

 キャンプ2日目になるとかなり娘もやる気満々である。結局旦那が乳精を味見していた。最後に1番手間がかかる空き缶で作るパン作りである。机の上に恐ろしい数の上部のプルタブなどが取り除かれた350mlの空き缶が並べられる。全ての缶が同じ種類で綺麗に処理されている。スタッフが全部飲んだのか??? 

「実は缶は業者に頼んでいるんですよ。自然保護の観点から空き缶でパンを作るんですけど、やっぱり数を集めるのは大変で。これ実は全部1回も使っていない缶だそうです。安心して使って下さい」

 小麦粉と牛乳、水、イースト菌を合わせ人の手で勢い良く練り合わせていく。ベタベタして中々パン生地らしくならないのだが、それでもめげずに練り上げて行く。生地に正拳突きをしてみたり、上空から投げてみたりやり方は人それぞれである。家族によっては親がすべて生地練を行い子供は参加しないと言った所もあったが、折角の家族での旅行。例え時間がかかっても子供と一緒にやらなくては楽しくない。娘も小麦粉でティーシャツの前をドロドロにしながら、必死に生地に手を伸ばす。練りあがった生地は1次発酵を経て空き缶の中に。そして2次発酵をさせてから上部をアルミ箔で蓋をして竈で焼く。焼きあがりは生地が上の方にムクムク盛り上がってきたら完成である。

「ずいぶん我が家のパンは焦げているような気が???」
「ま、細かい事は気にするな」

 割り箸でパンを空き缶から取り出す。缶のみならず生地の外側も黒く炭化してコゲコゲである。娘は本日もドレッシング教室から元気に帰ってきた。朝食のサラダ用のドレッシングはどうやらマヨネーズをベースにしたフレンチドレッシングであるらしい。

「ついうっかりだなあ、オイルを……」

 竈から旦那が軍手を外しながら戻って来た。朝食を食べながら事情を説明してもらうと、旦那が竈に火を付けた際、オイルライターのオイルを多少撒いて火を付けたのだが、その後更に調子に乗ってオイルを撒いてしまったと言うのである。


 キャンプ場は固い土であるのに、何故炊事場は砂地なのだろう。お陰で足に風が吹く度にホコリが舞って汚れて仕方ない。この時ずっと悩んでいたのだが、後日これは火を消す為であると判明した。何故分かったのかと言うとやはりキャンプ場で火を強くする為にオイルを撒いた人間が居て、この時は凄かった。大きな炎が上がり、人の体に火の粉が飛び散り…… 無論こんな所に遊びに来る人間はそうした場合迂闊に水をかけたら大変な事になる事を知っている。皆はどうしたかと言うと地面の砂を拾い炎にかけたのである。火はあっという間に鎮火された。「あ、こうする為に炊事場は砂地になっていたんだ」驚く事しきり。旦那のかけたオイルは幸い大事故には至らなかったが、大騒ぎになったら回りに山と転がる砂で消せば良かったのである。

 焼きあがったパンを縦に開くと確かに中はフワフワに焼けているのだが、外がカチカチのクロクロである。表面温度だけが上がってしまったのが焦げた理由であろうか?

「ちょっと失敗ぽいね」
「かもしれない」

 昨夜おにぎりにしておいたご飯をアルミホイルに移し、焼きお握りにする。これが思いの外美味しかった。娘と奪い合うようにして食べる。きっと醤油を塗って焼いた方が美味しいのだろうけれど、ご飯自体が美味しいのでこれで十分である。残った野菜はビニールに入れて自宅へのお土産にする。ブルーベリージャムも捨てるのはどうしても惜しく、サランラップで包みクーラーの中に入れた。これで全てのイベントは終了。テントを片付けてキャンプは終了した。初心者でもここまできちんとできると結構気分が良い。来年も来たいなという気分になってしまった。テント村が一瞬にして平地に変る姿は圧巻で街が荒野に戻るが如くとても潔く綺麗だった。

「さ、帰ろうか」
「ママ大事な事忘れてる! まだドレミちゃんに会ってないから、マザー牧場に行くのよ!」

 そう言えばその件がまだ残っていたか。娘はまだまだやる気である。夜実はコッソリ・スタッフに確認した所、ある一定の時刻になるとドレミちゃんの着ぐるみがマザー牧場に出現するそうなのである。

「この時間にドレミ館に行くとドレミちゃんに会えますよ。但し子供にとっては大きすぎて泣き出す子も居るらしいですが」

 わざわざ調べていただいてありがたい。かくしてマザー牧場にてドレミちゃんの出現を待つまでもなく、たまたま偶然その時刻にドレミ館の前を通ったので娘は大喜びである。ドレミの着ぐるみに抱きつき、写真を撮り、笑顔で戻って来た。

「ドレミちゃんはね、夜来た時は寝てたみたい」
「あ、そうなんだ。だから夜居なかったんだね」
「そうなんだね。みき気がつかなかったよ。夜良い子は早く寝んねをするんだね」

 娘は娘なりに1人納得して帰路に付く。帰りは予定通りフェリーを利用して自宅へ向かう事となった。私は既に疲労困憊。船の中ではみっともなく口を開けて寝てしまったが、娘は旦那と共にフェリーの中を探検していたようである。フェリー代金は4000円を越えていたが、シートはかなり豪華で座りごこちは決して悪くなかった。楽しかった旅行だけれども、唯一寂しくなったのは財布の中身であろうか。デフレスパイラルの現在、夏休みに使用する家庭の平均予算は9.3万円程であるそうだが、何かと物入りの我が家はそうはいかない。家計の財布の中の札は無くなり、夕食は外食ではなく家にあるあり合せの物と成ってしまったが「やっぱり行かなければ良かった」と言う気持ちにはならなかった。

「みきたん。来年も行くの?」
「行く!!!」

 ”小さな頃旅行に連れて行っても結局子供は覚えていないからつまらないよ”

 と言う話も聞く。子供の頃の旅行はそれでいいのである。小さな頃はいい思い出は綺麗に消えてしまって、悪い思い出はいつまでも残っていく。消えてしまった小さな思いでは子供たちの心の糧となり精神を少しづつ成長させて行くのである。これを”浄化”と言う言葉で表現する人も居るが、小さい頃の旅行は思い出を残す為に行くのでは無く、成長の1つの過程・手段として行くのである。来年の夏休みはどうなっているんだろう? 次は少しはテントを張るのを手伝ってくれるのだろうか? それは今誰も知らない事である。

「分かった。じゃいい子にしてたら又どこか旅行に行こうね」
「うん!」
「期待しております」

参考

「親子の絆と旅行」アンケート結果
http://www.jata-net.or.jp/tokei/anq/010709kizuna/
地域振興券で行った旅行の事(池田・子育て日記”可愛い天使の作り方”より)
http://members.jcom.home.ne.jp/angel-miki/PrettyBab66.html
http://members.jcom.home.ne.jp/angel-miki/PrettyBab67.html
東京湾アクアライン
http://www.aqua-line.com/ 
マザー牧場
http://www.motherfarm.co.jp/
今年も夏休みは「安近短」 予算9・3万円と少なめ
[くまにちコム]
http://kumanichi.com/news/kyodo/life/200208/20020813000668.htm




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