ライン










Internet Girl !






Wrriten by
Tomoko Ikeda



2001/10/07


目次
目次 2
1.きっかけは突然に 6
2.メールマガジン? 10
3.題決定!しかし先行き不安 14
4.初期フォーマット決定! 18
5.はてさて初期読者数は、 22
6.色々な事が分かってきたぞ! 27
7.お友達を増やそう!大作戦 30
8.読者数は増えず、でも負けない。 33
9.初心を忘れずに 36
10.ライバル登場? 40
11.人は、人、自分は自分 43
12.インターネットの恐怖 46
13.何故ハンドル名を使うのか 49
14.転送メールアドレス 53
15.メールマガジンで小遣い稼ぎ? 58
16.広告掲載開始 61
17.クリック保証型広告 65
18.モンチッチ会議 71
19.スランプ 76
20.ゲストライター 81
21.仲間 84
22.休刊 87
23プロへの道 91
24アプローチ 95
25.反応 98
26捨てる神あれば、拾う神あり? 103
28現在の出版業界 110
29.打ち合わせは続く 113
30メディアデビュー 116
31カメラマン&ライター 120
32ライターの条件? 123
33.何故か続く取材 126
34メールマガジン作家座談会 129
35インターネットの魔物 133
36ライターとしてだけでなく 138
37読者数1万人? 141
38.新しい形式のメールマガジン 144
39.解除依頼 149
40.商業ベースに乗せるには 152
41.ベンチャー 157
42.インターネットビジネス・手法 160
43.オフ会 163
44.はじめまして 167
45.オフ会の意味 170
46.インスタントな関係 175
47.配信スタンド設立 177
48.サイト・オープンすれど 180
49.引き合い 184
50.さようならメールマガジン 190


1.きっかけは突然に

何の曇りも無い、晴れた日の午後、ぽかぽかと照る日の光を避けて、あやは一人パチパチとパソコンのモニターに向かっていた。
マシンはパパからのお古の数世代前の機種なだが、殆ど家計簿用かメール用にしか使って居ないので不便を感じると言ったことは全く無く、サクサク元気に今日も又稼働中。窓を開けていると、時折部屋に吹き込んでくる涼風に梅雨の訪れを感じる今日この頃。集中しすぎて汗ばんできた顔を軽く拭いながら、あやはこう一人呟くのだった。

「紹介文はこんな感じで、さて一番大事な題名は何にしようかなー」

キーボードにあてていた手を下腹の前でむんずと組み、唇を鳥のようにつんつんと突き出しながら、あやは一人、久しぶりに真剣に悩んでいた。

「悩んでも仕方ないから、こういう時はメールしよう!っと」

カタカタカタと現在使っていたエディタを閉じ、慣れた手つきでデスクトップのショートカットにマウスを合わせ、メールソフトを立ち上げ、メールの入力を始めました。

-=*-=*-=*-=*-=*-=*-=*-=*-=*-=*-=*-=*-

宛先 ナオ 件名 相談!

「おはようー。あやでーす。
日曜日だけどちょっと聞きたい事があって、
元気してる〜
今度インターネットで"メールマガジン"っていうのを始めようと思ったんだけど、(☆o☆)/
内容は早く言えば私の日記かな。
毎日会ったことを書いて行くような感じ。
色々考えて紹介文はこんな感じにしました。
ちょっと読んでみて

メールマガジン紹介文(予定)

"高校二年生のあやです。
現在彼氏募集中のインターネット歴1ヶ月の女の子です。
毎日起こった楽しい出来事を、一生懸命書き書きしますので!皆さん読んで下さいね!(◎o◎)"

この紹介文が大事なのね。
それでこのメールマガジンの題を考えていたんだけど、良いのが浮かばなくて・・・ナオちょっと協力してくれない。
明日学校に行くときまでに考えておいて下さい!
じゃ、明日

-=*-=*-=*-=*-=*-=*-=*-=*-=*-=*-=*-=*-

「これでok。さて、返事が返って来るまで下に行ってテレビでも見ようかなー」

メールソフトの送受信ボタンを押し、あやはトントントンと2階の自分の部屋から下へ降りて行く。送信が完了すれば、自動的にダイアルアップ接続が切断される設定にしているので、パソコンの前でずっと待っている必要性は無い。
新しい事を始める時は、想像で何だか楽しい気分に成ってくるのは誰でも同じ事。必要以上にたんたたたんと足は軽やかなステップを踏んでいた。
首を左右に振りながら、

「どうしようかなー」
「困ったなー」

などといいながら困っている節もなく楽しそうに、階段を駆け下りると、ドドドドドーと廊下を走り抜けテレビに向かって一直線に走り抜けていく。
悩み?なんですかそれ?それ、食べられるんですか?え?美味しくない?じゃ、いらないなーという状態のあやなのでした。

「リモコンどこかな???」

2.メールマガジン?

「おはよう!」

楽しい日曜日はあっと言う間に終わり、今日は月曜日。
血圧の高いあやはいつでもどこでも元気である。教室に入り、荷物を置いて、既に来ていたナオの席へ向かう。

「メール見た!考えてくれた?」

ぐぐっと顔を突きだして来たあやに戸惑いがちのナオ。
読みかけの本を机の上に置いてこう言い放ったのだった。

「メールマガジンって何?」

(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)

信じられない・・・と言う顔をしながらあやは授業中、ナオへのために紙にこちょこちょと説明を書いて席伝いに紙を回していました。あまつさえ総理大臣でさえメールマガジンを出す時代なのに・・・何て時代に遅れて居るのでしょう!これは一つ私が教えてあげなくてはいけない

あや:メールマガジン;大きなメーリングリストの様な物。作者が書いた物を発行システムが読者に配送してくれる。
返事が返ってきました。
ナオ:メーリングリストって何?

・・・。何にも知らないのね!!!と授業中なのに一人憤慨するあや。
しかし、実はあや自身も1週間ほど前に知ったばかりなのだが、

あや:メーリングリスト;掲示板のメール版みたいなもの。自分が発言したことがその他のメンバー全員に配信されるシステムのこと
ナオ:良く分からない・・・授業が終わってから話そう!

(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)

授業が終了し。あやは、さささっとナオの元に駆け寄りました。ナオは自分の理解の外の話を持ち込まれて少々迷惑そうである。

「分かったような、分からないような。とりあえずあなたが日記を書いて、それを読者が本ではなくて、メールで受け取ると。そういうことなのね」
「早々。大体そう言うこと」
「募集はどうするの?読者は私だけ?後何人か誘うの?」
「んんん。それも発行システムがやってくれるの。タダで」
「タダって何かそれアヤしくない?」
「そうかなー。今7000人位がやっているらしいから」
「そんなに!!!」

キンコンカンコーンと次の授業の訪れを告げるチャイムの音が無情にも響き渡りました。授業と授業の合間の休憩時間はたったの10分。とても話しきれる物では無い。
あやとナオは、"続きは又後で"と無言で合図をして、席に戻っただった。

3.題決定!しかし先行き不安

昼休みとなり、ようやくお互いの意志の疎通が進んだらしく(その間多数の紙片が机の間を移動)二人は具体的な内容を紙に色々と案を書き上げた。

1. 援交際日記
2. あやのダイアリー
3. High School Lady Record
4. かわいい高校生の日記帳

「私援助交際なんてしてないもん」

ぷんぷんぷんと頬を膨らまし怒るあや。本気で怒ってる。そんな何時までも子供みたいなあやを相手にする大人なんて居ないって・・・と言いたげなナオ。しかし利口なナオは余計なつっこみをするようなことはまずしない。

「(誰も思わないって)読者にアピールする題でないと集まらないわよ!本は題が命なんだから!」
「それでもイヤ。もっと何か良いのないの?」

人も集まってきてガヤガヤと。
結局英語の方がカッコイイという多数決とお前はLadyと言うよりBabyだ!いやいやそれは言い過ぎ。せめてGirlにしろ!という意見により"High School Girl Record"に決定。

さて、高校では使えるパソコンが無い為、授業の合間、ノートに落書き、もとい原稿をちょろちょろと早くも書き始めていた。定期配信が行えるよう、出来るだけ面白い内容を書き溜めしておかないと・・・

2週間後、発行システムの新着メールマガジン紹介コーナーにあやの主催するメールマガジンが・・・。

「どうして!なんで!!!」

 掲載されていませんでした。

メールの内容を何度も確認するあや。
どうやら理由は新着のメールマガジンが余りにも多くて、あやのメールマガジンの紹介文まで載せられなかった、というのがおそらくの理由の様なのですが、問い合わせによる発行スタンドよりの回答は無し、しかしホームページの新着紹介コーナーにはしっかりと、あやのメールマガジンの紹介文が載っていた。
High School Girl Record
 発行頻度 不定期 
ID7011 
紹介文;
高校二年生のあやです。現在彼氏募集中のインターネット歴1ヶ月の女の子です。
毎日起こった楽しい出来事を、一生懸命書き書きしますので!皆さん読んで下さいね!

はてさて読者は集まるのか。

4.初期フォーマット決定!

新着紹介に載って1日目。

予定では合計3日掲載されるはずなのだが・・・読者数は現在25人。

「少ないナア」

気が付くと一日何度もホームページにアクセスをてしまうのだった。

「やっぱり土日が勝負よね。ぐあんばるぞ〜」

授業の合間を縫って書いているせいか、気が付くと既に3話分も書き上げてしまっていた。

発行頻度は掲示上では不定期としていたが、週2回月曜日と木曜日に決定。理由はどうやら発行システムのホームページの更新が、どうやら発行頻度が高い物から順に火曜日・木曜日に再作成を行っているように見受けられたからである。

後日、"不定期"と記載し、定期配信するよりも、"定期配信"と書いて定期配信、又は不定期配信する方が集まりやすいと言う事を知るのだが、現時点でその情報をあやにアドバイスする人間は居ない。

「とりあえず1000人に到達するまで、週2回のペースは守った方がいいわね」

又、今後のリサーチ・研究の為に、日記関連のメールマガジンを全て読者登録する事にした。日刊のマガジンを読むのは少々きついが、つまらなければ即解除すれば良い。勢い込めてどんどんマガジン登録を行う。

ふむふむ・・・原稿内容は出来た、ということで他のメールマガジンを参考にして、あやメールマガジンのヘッダ部分とフッタ部分の欄をデザインする事にした。

ヘッダ部分はメールマガジンの名前、発行年月日、発行数。
フッタ部分には解除方法やこのメールマガジンの主義主張、後で何か言いがかりを付けられたら困るので免責事項などを人のメールマガジンの真似をして記載する。色々なメールマガジンの情報を参考にして作成を行った。結構会心の出来。あやのイメージ通り、"シンプル・イズ・ベスト"なデザインは仕上がった。

はっと時計を見るともう時計は12:00を回っている。
「最初の発行は月曜日にしよう・・・」
★ヘッダ★-----------------------------------
★ HighSchoolGirlRecord.No.0.1999.06.20.発行部数.Presented by Aya.
-------------------------------------★フッタ★------------------------------------このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して発行しています。
(http://www.mag2.com/)購読の解除は0000007011です。
PresentedbyAya営利・非営利に関わらず無断での転載、再配布、全文および一部の引用等を禁止します。
なにか不都合が生じても、当方はなにもできません。

5.はてさて初期読者数は、

190人。

3日間新規登録のページに掲載された後の結果である。

ぴったりとした数だなあ。

と思いつつも準備していた原稿をドキドキとしながら始めての配信!原稿をWeb上にコピーし、テスト配信、本番配信を行うことにしました。

メールマガジンというのは普通のエディタなどでの原稿と違い、発行者側が35-40文字単位で行を整形しなくてはならない。あまり文字数が長い行が存在すると、エラーとなってしまう様だ。その様なことを全く知らなかったあやは、エラーメッセージに慌てて原稿を手動で改行整形する。よし、これでテスト配信出来るはずだ!


元原稿 あ一文字が10文字だとすると
あああああああああああ
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
メールマガジン・配信用原稿
ああああ
ああああ
あああ
↑このように指定文字数で改行コードを入れなくてはならない
 こうしないとメールソフトによってはきちんと読むことが出来ない

テスト配信とは、原稿が正しくメール送信されるかどうかチェックする機能の事である。Web上で確認するだけでなく、自分のメールソフトでも原稿が綺麗に表示されるかどうかを確認してから、本番配信を行うのが一般的の様だが、猪突猛進型のあやはチェックもせずにガンガン配信作業を進めて行く。

すると、メールソフトに、がこがこと配信終了を伝えるメールが入って来た。どうやらあやの原稿はトラブル無く、無事配信サーバーに渡され、読者に配信された様である。

「やったー。発行したぞーーー誰か感想メールくれるかなー」

さっさとパソコンの電源を落として今日は大人しく寝床へ向かう。パソコンをした後に蒲団に入っても頭が冴えて中々寝ることが出来ない。体は寝ていてもどうしても脳が寝てくれない。目を外に向けると、窓の外からは月の光がさんさんと降り注ぎ、まるで昼間の様である。

「カーテンしめないと・・・寝られないよ・・・」

レースのカーテンと布地のカーテンをシューっと占め、手元ライトの電源を落とすと部屋にやっと夜の時間が訪れて来た。

「やっぱり・ドキドキして寝付けないよー」

(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)

一夜明けて更に2日後。

「感想メールが誰からも来なかった」

あやは高校でナオの机に両手を叩きつけ、睨みつけながらそう怒って言った。
あ、うっかり読んだけど感想なんて書かなかった。うっかり、うっかりと頭を掻くナオ。誤魔化しています。

「ごめんなさい書くの忘れていた。でも面白かったよ。次が楽しみ、楽しみ」
「そんなお義理メールなんていらない。190人にも出したんだよ!何で誰も返事をくれないの」
「そんなの知らないけど・・・返事が欲しくてやる訳じゃないでしょ」
「そうだけど・・・どうしてくれないんだろう」

愚痴愚痴と終らないあや。後日読者数がたくさんあっても感想メールはまずめったに来ない物だと知ることになるのだが、現在は全く知識のない白紙の状態。
翌日第2号を配信するも感想メールは無し。
ぐぬぬぬ・・・納得いかない・・・という状態。
ただ不思議なことに読者数は86人も増加して276人。
先行きが暗いような、明るいような。
とりあえずあやはメールマガジンの海に一人こぎ出したのは間違い無い事の様であった。

「ぐあんばるぞ〜」

6.色々な事が分かってきたぞ!

発行数もはや5回を経過。
感想メールは相変わらず来ないものの、何か決められた仕事の様にあやは定期発行を続けていたのだった。
読者数はついに300人を突破し、364人。あっという間に約2倍に増加していた。

「順調なんだほ〜」

今日は日曜日でナオも家に遊びに来て読者増を喜んでいました。

「それでね、色々分かったことがあるの」
「何?」

夏の新製品プリンを頬張りながら、ナオはものぐさげに答える。ナオはもうメールマガジンに飽きたようで、返事に力は籠もっていません。それでもあやは力拳を握りながら続けたのだった。

「どうもね、発行数のしきい数って3回くらいにあるみたい。大体3回前に来なくなっちゃう。もっと酷いのになると、1回も発行されないで廃刊するようなのもあるのよね」
「ええ?本当に?」
「うん。私が発行した頃に出したメルマガでまだ続いているのって半分も居ないよ」
「ふんん」
「そこでね、私は日記系を出しているメールマガジン作家の人にメールを送りまくったの。"いつも楽しく読んでいます。お友達になりましょう!"って」
「え?そんなこと何時の間にしていたの」
「ちょこちょこ隠れて・・・そうしたら何人かは返事をくれて、私のメールマガジンを読んでくれると約束してくれた人も居たの」
「よかったじゃない。やっぱりそうやって地道な活動が大事なのね」
「友達になった人に聞いたんだけど。やっぱり感想メールってあまり来ない物みたい。アンケートを取っても商品まで付けても1割来れば御の字で、全く来ない事もあるってさ」
「そうなんだ・・・あやだけでなくて良かったね」
「うん!」

毎日楽しくて仕方ない。あやの頭の中には次の読者数増の為の作戦が浮かんでいたのでした。

7.お友達を増やそう!大作戦

あやは最近創刊したメールマガジンに面白い広告文を発見した。

(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)

相互広告メールマガジン募集中あなたもお互いに広告を出し合って読者増を目指しませんか。料金は当然無料です。
お便り待っています!!http://alg.0000/
(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)

相互広告?メールマガジンのヘッダ部分とフッタ部分に企業広告などが載っている事があるが、その事を言っているのだろうか、しかしお金がかからないで広告文が出せるのであれば、やってみたい!!!と思ったときが吉日!とすぐメール。
返ってきた返事は、

「是非お願いします。当方は読者数400人の週1回発行のメールマガジンです。
そちらは週2回の発行であると言うので、週に1回掲載して頂ければ構いません。
当方は毎回広告を掲載することにします。是非そちらの広告文をお送り下さい」
「やった!!!」

慌てて広告文をデザインし始めるあや。しかし中々良い案が浮かばず、思考錯誤の末ようやく広告文を作成終え、メールに添付して送信した。

広告文

*:・'゜☆。.:メルマガ【High School Girl Record】:*:...:*::・':*:
高校二年生のあやです。現在彼氏募集中のインターネット歴1ヶ月の女の子です。
毎日起こった楽しい出来事を、一生懸命書き書きしますので!皆さん読んで下さいね!(◎o◎)-メルマガID【7011】です。まぐまぐで登録できます
:*:*:・'゜☆。.:*゜'・http://www.vector.co.jp/authors/VA014203/:*:

「以外とこういう広告文とかも用意しておいた方が、もしもの時すぐ出せていいのかもしれない・・・」

キュイインとパソコンの電源を落として、あやは今日も又夜遅くの時間に布団に入ったのでした。季節はもう梅雨に入っています。

8.読者数は増えず、でも負けない。

「さーらりとしたうーめーしゅ〜」

鼻歌にも元気がない。あっと言う間に1週間は過ぎた。
相互広告を出し合った結果は・・・いつもよりは増加数が10人程は多いものの、"増えた"という実感は無し。
「もっとどばっと増えないと〜メリット少ないよね」
あや自身、そう言うメールマガジンの相互広告が載っていてもアクセスした事が無い癖に、言いたいことは言う。最近変わった事と言えば、更に購読するメールマガジンの数が増大した事であろうか。現時点では面倒くさくて数えてはいないのだが、購読数はおそらく100誌は越えている。但し休刊、が多いので実際に届くのは一日3通程度なのだが。

「あ。このメールマガジン面白そう!」

と少し思ったくらいで簡単に登録できるのが、メールマガジンの良い所。
つまらないから解除しよう。と思っても解除する前に廃刊するのが大概のパターンである。新しく生まれ、どんどん消えていくメールマガジン。しかし、下手な鉄砲数うちゃ当たる。の戦法であやは又面白いメールマガジンを発見した。

「これはいけそう。早速投稿しなくちゃ!」

それは"メールマガジンを紹介するメールマガジン"というもの。雑誌で言えば"テレビガイド"みたいな物だ。何しろメールマガジンの数は多い。月に4000誌も発行されているのだから、どうしても面白いメールマガジンというのは見つけにくい。よってそれらを見つける手助けをしましょう!という奇特なメールマガジンなのだが、これがまた1つや2つではなく調べてみるとかなりの数が発行されている。

「とりあえず、全部に送ってみよう。効果はあるかしら・・・」

気が付くと読者数を増やすことだけに命を燃やしているあや。
本末転倒、何か間違っている。そう気が付いたのはこれらの投稿を全て終え、採用され、掲載が終わった時でした。

9.初心を忘れずに

紹介メールマガジンに紹介して貰い、(一部では掲載の意義なしと断られた)読者は415人と少しながらも増加中。発行数もついに二桁の十回を突破し。最近はついにぽつぽつと感想メールも届き始めるようになった。

「前よりも文章が上手くなったと思います。これからも頑張って下さい」
「登録解除して下さい」

感想ではないじゃないか!!!とメールマガジンを全文引用で送ってくる人間も出てきました。どうも"メールマガジンを解除するには、全文引用し、転送すればok"と勘違いしている人が多い。もしかしたら昔はその様な解除方法が一般的であったのかもしれないが、非常に不愉快、メールボックスにそういったメールが到達するたび、あやはイライラ・イライラ・してしまうのだった。
メールアドレスさえ分かれば解除することも難しい事ではない。だから悲しいながらもしぶしぶ言われた通り登録解除をする。

「私が何か悪いことしたんだろうか・・・」

登録解除依頼のメールというのは本当にタチが悪い。殆ど"解除して下さい"しか書いていない。せめて自分の登録しているメールアドレス位は書いて欲しいのだが・・・自分で登録をしたのであれば、自分で解除をするのが当たり前ではないのだろうか・・・メールマガジン作者はサービス業ではないのだから・・・。

「イヤになっちゃうなもう。皆ネチケットという言葉を知らないのかしら」

昼休みにナオに当たることも屡々。それでも"文章力がついてきた"というメールに励まされ、気が付くと思いつきを書きつづるのみではなく、自分自身の考え、主張を持った立派な文章を書くことが出来るようになってきていました。

「メールマガジンを始めた理由は」
「え?理由って?そんなの無いわよ。暇だったし、なんとなく面白そうだったから始めただけ。それだけよ」
「いや。それは違う。よく考えてみて。忘れているだけで、きっとあなたは昔文章を書くことが好きだったのではないの?思い出して」
「え・・・」
「少なくとも私はそうだった。もしかしたらあなたもそうなんじゃないの」

様々なメールマガジン作家とメール交換する内に交わされた会話。
そう言われてみれば・・・小学生の頃小説家になりたくて、一生懸命文章を書いていた時期があったような・・・そしてそれを先生に見せたら「感想文は本をそのまま書いてはいけません」と笑われた事があった様な・・・感想文ではなくて自分が考えたお話だったのに・・・幼い頃笑われた事がトラウマとなってそれ以後書いた物を人に見せたことはなかった。

そうして月日は流れ、夢を持っていたことも忘れてしまった今日この頃。
文章を書いていく内に忘れていた何かを取り戻しつつあるあやなのでした。

「もう少し真面目にやってみようかな」

10.ライバル登場?

"読者増病?"がようやく収まったあや。
ノイローゼに罹ったかのように過ごしていた日々は一体何だったのか。
ぽかぽかとした日差しを浴びながら、昼休みにナオと内容のない会話を繰り返す。

うーん。平和だ!

私は幸せあなたも元気。しかしマーフィの法則に従い、ある一つの危機が、じわじわとあやに襲いかかってきたのでした。

「あや!どうなのメールマガジンの読者は増えたの」

そんなに仲の良くない。ただ高校生でインターネットをやっている人は少ないから、情報収集がてらに話をするというだけの友達、千鶴がやって来た。決してキライな訳ではないのだが、髪を茶色にしてスカートを短くした彼女はどうしても小悪魔的なイメージがあって、古典的な高校生であるあやは馴染めないでいた。

「んんん。今連載11回目で422人かな。でももう読者数なんてどうでもいいんだ。
だって増えたって何のメリットもないんだから。それよりも今居る読者を大事にしてゆっくり、仲良くやっていけたらいいなーって。そう思ったんだ」
「ふーん。そうなんだ。私もね実は内緒にしていたんだけど、メールマガジンを始めることにしたんだ。昨日新作情報で紹介されたんで、始めて配信したの!」
「ええええ????」

突然大声を上げてしまったあや。自分は新着情報で紹介されなかったのに!どうして!とたんに教室中の人間が振り返ります。慌てて両手で口を、押さえ頭を下げます。"何か起こったのか!"と鋭い眼差しがあやに注がれますが、すぐ何ともなかった事を知ると、教室はいつもの雑踏に戻って行きました。

「何、驚くことないでしょ。誰だって出せるんだから。それでね、読者数は何人だと思う」
「え、分からない。
200人位かな?」
「おしいなー。当たったらエルメスのバッグでも買って上げようと思ったのに。正解はね」
「じらさないでよ。何人?」
「登録初日で、約10000人。メールマガジンなんて簡単じゃない」

新着情報の力は恐ろしい。

11.人は、人、自分は自分

"読者数、初日で10000人"のショックがまだ抜けず、あやはのろのろと自宅へ帰って行来ました。
今まで私は何をしていたんだろう・・・とまで思いながらパソコンの電源を入れる。
ダイアルアップでインターネットにログインして、すぐ発行サイトの新着情報コーナー(登録されたメールマガジンは必ず最初はここに紹介される)へ向かう。

ふむふむふむ。

確かにハンドル名"チーズ"でメールマガジンが登録されている。題名はどこかで聞いたことがある。何と"援助交際日記"だ。バックナンバーをよくよく見るとメールアドレスも同じだからおそらくこれだろう。

ホームページが無いのでバックナンバーを見ることは出来ない。
しかし、この題だったら10000人登録する人も居るかもしれない・・・エロ系は強いから・・・がっくりと頭を項垂れながらも、ノソノソ読者登録をするあや。
頭の中では自分とは方向性が全く違うから、と分かっているのに、ショックは全く隠せない。

「私だって神様じゃないんだから。関係ないと思っても悔しいナー」

インターネット接続を切断し、ばさっとベッドに転がるあや。落ち込んでいられない。明日は発行日だ。今日は寝よう・・・

(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)

翌朝、高校へ行く前にメールチェックをすると千鶴の出しているメールマガジンが届いていました。慌てて内容を確認する。

"はじめまして!チーズです。創刊号を読めなかった人から"是非読みたい"というメールが沢山来たのでもう一度送信します。2回読む人はごめんなさい。
モテモテでチーズは幸せです。創刊号で読者数が10000人だったのが、今回は12500人。

ありがとうございます!感想メール待っていますのでガンガン送って下さい。
今回感想メールをくれた人にはチーズのプロフィールを付けますので宜しくね!では創刊号読んでね!
"創刊号


12.インターネットの恐怖

毎日送られてくる千鶴のメールマガジン。
内容は過激さを増すばかり。

"前回感想メールが300通も来てびっくりしてしまいました。
返事にはランダムにサービスで私の制服の写真を付けておきました。入っていた人はラッキー。それ以外の人は又メール下さいね"
"私の住んでいる街は田舎で、駅の名前はつくし野という所です。駅から歩いて10分位行った所に私は住んでいます・・・"
"援助交際を始めた理由は・・・"
"昨日むかつくサイトを見つけました。URLは以下です。"

何考えているのだか・・・しかし調子に乗るのもそろそろまずい。あやは何度も千鶴に忠告しました。言葉少なげに、「内容が過激すぎる」と。
しかし、千鶴は一顧だにしてくれない。

「読者が少ないからひがんでいるんでしょ。大丈夫よ。だって読者の人は私の本名だって住所だって、電話番号だって知らないんだから。よっぽど文通とかより安全だわ!」

と取り付く島無し。発行を開始して2週間。あやの予想通り、事件は起こったのであった。

(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)

いつもの通り、駅で友達と別れ、自宅へ向かう。足下にはおきまりのルーズソックス。昨日から履きっぱなしなので、少々臭いかも知れないが、他人に気が疲れる事はまず無いだろう。
駅の階段を降りてすぐ、千鶴は見たこともない男に呼び止められた。

「チーズちゃんだろ」
「え?」

と振り向く千鶴。
そこには髪をボサボサにして眼鏡をかけた40歳前後の中年男が立っていた。

「メールマガジンいつも読んでるよ。援助交際しようよ〜」

いやらしく手を伸ばしてくる中年男、声を上げたくても足が竦んでしまっている千鶴。口はパクパクと動くばかりで声が出無い。男はいかにも当たり前と言うかのように千鶴の下半身に手を伸ばします。
触られた瞬間、呪縛が解かれたかのように中年男を跳ね飛ばす千鶴。

「何故?」

という顔をして再び迫ってくる中年男、ようやく千鶴の口から小さな声が出ました。

「助けて〜」

13.何故ハンドル名を使うのか

翌朝、千鶴は学校を休みました。
そしてあやとナオにメールを送り、学校の帰り際に寄ってくれるように頼んだ。
「どうしても相談したいことがあるから」と。
一人で居るといてもたっても居られない気持ちになっていた。何とかこの気持ちを整理したい。しかしかといってインターネットについて全く知らない友達を呼んでも、説明するのに時間ばかりかかってしまい、埒があかない。
多少なりとも事情を知っているあやとナオに相談にのって欲しかった。いや、誰かに話して聞いて貰ってすっきりしたかった。

襲いかかってきた男は通りがかりの人たちに取り押さえられすみやかに警察へと連行されていった。勿論千鶴も警察で事情を聞かれ、説明をしなくてはならなかった。結果、証拠不十分ということで中年男性は厳重注意の上釈放された

千鶴も婦警のお姉さんに家まで送られ、無事家へ戻ってきた。
母親には「痴漢に襲われたの」と説明し自分の部屋へ入った。
暗い部屋で一人になったとき、再び恐怖が体に襲いかかってきて体が小刻みにガタガタと震えた。明るい所で見れば男は脂肪だらけのぶよぶよの体で、空手の経験者である千鶴が喧嘩をしても負けることはないはずだった。
何時間経ってもぬぐい去れない恐怖に襲われながらも、静かに夜は明けていった。

(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)

「どうしたの千鶴!風邪引いたんだって。メール見たよ。又遅くまで渋谷ででも遊んでたんでしょう!」

お気楽なあやとナオがケーキを持ってやって来た。制服のままである。
急に暗くなっている千鶴。あやは珍しく空気を読み、大人しくソファーに座った。ナオは目線をまっすぐ千鶴に向け、静かに話しかける。

「どうしたの?らしくないじゃん」
「実は・・・」

交差点に飛び出すかのような勢いで、千鶴があやに抱きついてきた。泣きじゃくるかのように語り始める千鶴。余程恐かったらしい。

その内容を要約すると、発行の回数を重ねる内に読者から送られてくる感想メールが、だんだん過激な内容(是非援助交際をして欲しい、顔を見たいなど)となって行き、断ると脅迫めいた同じ内容のメールが100通、200通と送られて来たのだと言う。

最後には普通に友達から送られてきたメールさえもメールサーバーが一杯になってしまい、受け取れなくなってしまった。
そして、昨日、警察の調書によると、メールマガジンの内容から、帰宅時間、容貌、最寄り駅を判断、千鶴と援助交際をしよう!とメールマガジンの一読者が千鶴を待って駅の出待ちをし、襲いかかって来たのだと言う。

「恐かった。私どうしよう」

14.転送メールアドレス

「とりあえず私が言えるのは、メールマガジンは残念だけど廃刊すること。そして現在使っているメールアドレスも破棄することね」
「うんんん。もうメールマガジンはやる気はしない。もうこんな恐いことしたくない」
「余計なこと書くからよ。読者は読んでないようで読んで覚えているんだから。
メールマガジンは自分の日記帳じゃないのだから。世界に広がって居るんだから」
「ごめんなさい」

話を終え、ひとしきり泣いた後の千鶴の行動は早かった。
早々に読者に廃刊の旨を伝え、廃刊の手続きを取った。ボタンを数回クリックするだけの簡単な作業。これで千鶴のメールマガジンは各読者に配信されたメールマガジン以外は、バックナンバーもろともこの世から消えて無くなって行った。
ここまでは簡単だったのだが、メールアドレスを1つしか持っていない千鶴はこのメールアドレスを破棄すると、新しいメールアドレスが来るまでメールが出来なくなるという問題点が発生した。これだけメールに慣れていると、メールが無い生活に到底耐えられそうに無い。

「どうしたらいいの?」
「サイトによっては無料でメールアドレスをくれる所があるから、そこでメールアドレスを貰って使えばいいのよ。早い所だと当日、その場でくれるわよ」
「そんなに早く!!!しかもタダなの」
「そう。
そして今度プロバイダのメールアドレスが来たら、無料で貰ったメールアドレスは転送メールアドレスにして、そこに届いたメールはプロバイダに転送してもらうようにすれば楽よ」
「そんなことできるんだ!!!」

涙をぬぐいながら、ぱちぱちとマウスをクリックする千鶴。
あやの言うアドレスにアクセスしてメールアドレスの申し込みをします。

「これからは掲示板に投稿する時はこっちの転送メールアドレスを使った方がいいよ。そうするともし今回みたいな事件が起こった時、簡単に破棄できるでしょ」
「んんん。そうする。どうもありがとね。でもこれもタダって怪しくない?」
「無料の分、時々広告メールが来るけどそれくらいだよ。大丈夫!実は私も最近メールマガジンの購読にはこっちを使っている。何かと怖いからねー」

千鶴の口から始めて"ありがとう"という言葉を聞いたような気がした。
その後もあやは千鶴のどこがまずかったのかを言葉を選びながら説明した。
個人情報の公開は危険であること。特定の人間を批判することはその人の恨みを買い、酷い目に遭うことがあるので止めた方が良いことなどなど。

「うん。うん」

と素直に頷く千鶴。

最初からこう言うことを教えておいていたらこんな事起こらなかったのかもしれない。私の責任もあるかもしれない。あやはある意味責任を感じ、反省していました。たかがメールマガジンと言うべからず。メールマガジン発行者は既に"公人"であるからだ。迂闊な行動はそのメールマガジンを楽しみにしている読者へ確実に返って行ってしまう。

「私が甘かったのかなー。でもね楽しかったんだよ。最後のあれが無ければ」
「落ち着いたら又やればいいの。その時はもっと凄いことができるよ」

15.メールマガジンで小遣い稼ぎ?

「はー今月も赤字だよ」

インターネットをしない時はすっかり"家計簿用マシン"となっているあやのパソコン。赤字の持ち出し部分はお年玉で補填 する
アルバイトをせずすっかりぐうたら生活を送っているあやにとって小遣いの予算組みは重要な問題なのであった

「お小遣い値上げをママに提案しようかしら・・・でもそれを言うともっと家事を手伝えと言われるし・・・」

パソコンの電源を落とし、どばっとソファーの上に倒れ込むあや。働かざる者喰うべからず、当たり前の事なのだけれど、ぐうたら生活を辞めてまでお金が欲しいとは思わないし・・・
何か良いアイデアはないものか・・・あやは真面目に一人考えあぐねていた。
!!!。
ふと、良いアイデアが浮かんだ様である

「メールマガジンでお金が稼げないかな??!」

(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)

大慌てでパソコンの電源を入れ直し、検索サイトに接続してサイトを検索します。探してみるとあるもので、メールマガジンの5行広告を斡旋してくれるサイトは現在3つ発見することができました。細かい規約を流し読みし、とりあえずあちこちに登録をしてみる。

「これで、広告がもらえる訳ね!」

購読読者数に応じて、金額は違うものの、ゼロよりはいいか!と5行広告の基礎知識を頭に叩き込んだあやなのだった

広告種類
ヘッダ広告;メールマガジンの一番先頭に載せる広告の事。
ボディ広告;文章と文章の間に掲載される広告の事
フッタ広告;メールマガジンの末尾に掲載される広告の事。
値段はヘッダ広告>ボディ広告>フッタ広告の順で高い。

16.広告掲載開始

登録を行った次の日から、広告掲載を斡旋しているサイトからのメールが数日おきに飛び込んでくるようになった

「○月×日前後にメールマガジンを発行するウエブマスターの方々、発行部数及び発行日をメールでお伝え下さい」
「広告掲載が決まりました。以下の広告をメールマガジンのヘッダ部分に掲載して下さい。又、他の広告はヘッダ部分には掲載しないで下さい」

24回を越えたあやのメールマガジンの読者数は565人。メールマガジン全体の読者数から考えると決して多くはありません。
広告を数回掲載し始めて、ようやく規約の詳細を読み直すようになりました。
重要部分を抽出すると。

1.広告掲載料金がトータルで1000円を超えた場合に広告料を支払うということ。
(銀行への振り込み手数料はウエブマスター持ち)
2.クライアント側が斡旋会社に支払う額はメールマガジン1部につき0.5円。
ウエブマスターへの支払い額は1部につき0.1円であるということ

「ということは・・・。私のメールマガジンの一番目立つ部分に広告を掲載して、56円???たったの???」

それでも需要があるのか、次々と広告は送られて来ます。改めて紙の上で広告料が貰えるまでの時間を計算してみることにした

1000/56=17.85(1000円取得までに掲載しなくてはならない広告の数)
17.85/8=2.23(週2回発行で計算した場合、1000円取得までにかかる月数)

「2ヶ月、休み無しでやって、やっと1000円ということ・・・」

全部のメールマガジンに広告が掲載される訳ではないので、到達には当然2ヶ月以上かかる事が容易に想像できた

「うーん。ゼロよりは載せた方がいいかなと思ったけれど、バカバカしいかもしれない」

5行広告を多数載せているメールマガジンが人一倍嫌いなあやにとって、決断の時はそう時間もかからず訪れました。斡旋会社とのトラブル。
"広告掲載のURLが間違っていたため、もう一度修正したURLを無料で掲載しろ"

という上段からの指示。たった56円かもしれないが、こちらは責任を持って掲載をしているのに・・・掲載を拒否していると

"掲載して貰わないと困る"
"約束が違う"

などとやって来るのは不愉快な内容のメールばかり。あやは最後の広告を掲載後、その斡旋業者とは縁を切ることを決断した。後に精算してくれるのかと思いきや、そういった話は全く出ず、「意見の相違を正すことが出来ず残念です」といった内容のメールだけが最後に届いた。手間ばかりかかって、手に入った金額は結局"ゼロ"。世の中甘く無いようである。

「でも、負けない!」

大人しくアルバイトをした方が早いかも・・・小規模のメールマガジンは全くお金にならない。その事に気が付くあやでは無かった。

17.クリック保証型広告

メールマガジンで儲けようと思った物の、なかなか上手くいかず失意の日々を送っていたあやに、あるウエブマスター向けダイレクトメールが入って来た。

メールマガジン発行スタンドにおいて、発行者のアドレスは公開されては居ないのだが、ダイレクトメール業者はメールマガジン発行者のメールアドレスを取得する為に、メールアドレスの知りたい作者のメールマガジンを読者登録し、メールマガジンのヘッダ情報などを専用プログラムで自動解析する事により(reply-toはその作者のアドレスである事が多い為)メールアドレスリストを作成するのだという。通常、あやはダイレクトメールを受け取る事を極端に嫌うタイプではあるが、こういった"ウエブマスター向け"のダイレクトメールは"有名になってきた"というイメージがしてちょっと嬉しいのも事実である。

内容は"クリック保証型"メールマガジン広告斡旋についてだった。
従来の部数に対して一定の比率で対価を支払うという方法ではなく、その広告を見て、そのURLにアクセスした人数に応じて料金を支払うと言う物でした。何も載せていないよりはお金になるのであれば・・・とダイレクトメールに従い登録作業をするあや。

「少なくとも読者は500人以上いるんだから、半分くらいの人はきっとクリックしてくれるんじゃないかな・・・」

1アクセスについてクライアントは斡旋会社に120円支払い、ウエブマスターには30円支払われるようだから・・・250人アクセスした場合は7500円!夏休みの良いお小遣いになるかもしれません。

「これくらい貰わないと・・・やってけないわよ!」

ニタニタ笑顔でメールマガジンにコピーアンドペーストで広告をコピーするあや。
クリック保証型の広告はシンプルそのもの。
URLが1行、広告が1行しか入っていない。

クリック保証広告
-------------------------------------
新しいサイトが出来ました!遊びに来てね
http://www.****
-------------------------------------
配信部数型広告
-------------------------------------
━━━ 派遣先は***ファイナンス ━━━ [職] 電話オペレータ/一般事務
短┃期┃ス┃タ┃ッ┃フ┃百┃名┃募┃集┃[地] 東陽町(イースト21内)
━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛[資] 高卒以上20〜35歳位迄
  < 詳しくはこちら→ http://www.***.net/cgi-bin/36?00340011 >  
◇◆◇ 人材派遣の***エンタプライズ 採用担当係 ◇◆◇
-------------------------------------

アピール度が低いんじゃないか・・・色とりどりカラフルな広告に慣れていたあやは心配至極でした。メールマガジンを発行した翌日。広告斡旋業者のサイトに接続し、クリック数を確認する。
ここでは読者が何時にクリックしたのかという情報もリアルタイムに知ることが出来、非常に便利な作りになっていた。

結果発表「・・・。ふたり?ということは60円?」

どかっと床に倒れ込むあや。一人は自分であり、もう一人はおそらくナオであろう。千鶴はクリックしなかったんだな・・・裏切り者!!!用が済んだらはいサヨウナラなんてずるい!少しは私の役に立って欲しい!と自分勝手に思いつつ。クリック率は0.4%と記載されていた。テキストプレーンのメールマガジンの平均クリック率は何と0.1%!であると言われているから、これは決して低い数字では無いのだが、

メールマガジンで儲けようと言うのは不可能な事なのか。
自問自答しながら、あやはナオの家と千鶴の家へ電話を入れ、相談をすることにした。
「3人集まれば文殊の知恵というから・・・といっても私たち三人が集まってもサルが3匹集まってモンチッチ・・・なんて事にならなければいいんだけど・・・」
一人切れたように"モンチッチ・モンチッチ"と騒ぎ続けるあや。さすがに万策尽きたという感がある。これで相談して解決しなかったら大人しく節約生活に入ろうと決断するあや。

さて広告料をゲットして明るい夏休みを過ごすことができるのか、どうなのでしょう・・・。

18.モンチッチ会議

翌日、「何事やら?」
という顔をしたナトと千鶴があやの家へとやって来ました。
メールマガジンに広告を載せて儲けようと思ったのだけれど・・・と今までの経過を簡単に説明する。

「簡単にお金を儲けようと思ったってそれは無理だって、やっぱり自分の体を張って・・・」

"ちろっ"と皆の視線が千鶴に集まります。
慌てて口を押さえる千鶴。
それだけ酷い目にあってこりないね、という目をするナオ。しかしあやは本気だ。

「色々やってみたのよ。でも上手くいかないの。斡旋業者に登録したり、"広告掲載致します"とあちこちのサイトで広告出してみたりしたんだけれど・・・。何か良いアイデアないかしら?」

モンチッチ状態のままの3人。
最初にアイデアを出したのはやはり頭が通常人よりも不思議な色をしている千鶴だった。

「広告を出してみませんか!とこっちからダイレクトメールを企業に出してみたらどうかな?女子高生向けの商品を出している通信販売のサイトとか。"このメールマガジンに出したら効果がありますよ"とか売り込んでみたらどうかな」
「えええ。それって受け取る人は迷惑じゃない」
「でもさ、私がメールマガジンをやっていた時もどこで調べたのか私宛に色々ダイレクトメールが来たわよ!皆も出しているだから別にそれ程気にしなくても大丈夫なんじゃないかな」

千鶴は力説する。
その日はそれ以外に良いアイデアは出ず、あやのママお手製のスコッチケーキを食べてお開きとなった。
二人が居なくなった部屋でパソコンに電源を入れるあや。手慣れた風にそそくさとサイトを検索始めた。

「文体に気を使えば大丈夫!ヘッダ広告、フッタ広告共に1000円なら高くないわよね!千鶴ありがと!グッド・アイディアー」

(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)

めくらめっぽう、沢山出すのではなく、対象サイトを絞ってメールを出したせいか、あやが思っていたより返事のメールが相次いだ。

"検討させて頂きます"
"機会がありましたら宜しくお願い致します"

などなど、直接広告ゲットには繋がらなくても成果は上々。
内いくつかはなんと!成約に結びつける事ができたのだった。
まず掲載日時を仮予約して貰い、広告料金を前払いにて、銀行又は郵便局にて振り込んで貰い、料金入金を確認後に、本予約とし、メールマガジンの発行を行った後はクライアントに見本誌を送付する契約である。あっけなく取引は成立し、あやは初めての広告料を手にすることが出来たのだった。

「よかったー嬉しい」
月全ての発行枠が埋まることもしばしば、大分調子に乗っている。
「あたしって才能あるのかな?困った困った」

"独自広告を取る"というのはメールマガジン作家が確実に儲ける為には非常に有効な手段である。勿論早々入ってくるわけではないが、少なくともクリック広告や部数課金広告をただ、載せているよりは絶対に割が良い。
更に言うと"メールマガジンに合った広告"を作家自身が作る事も可能なので、やはり通常の5行広告などに比べると、読者への浸透率も当然違ってくる。効果があり、利益にもなる。取る手間さえ惜しまなければ、メルマガ作家にとって非常に有効な手段である。
自分の出しているマガジンと同一ジャンルのマガジンで、独自広告を出していた場合、そのリンク先の企業に直接アピールしたりすると案外あっけなく広告が取れてしまったりする。特に英語系のマガジンにこの裏技は有効であるようである。

19.スランプ

「何しに来たのあんた」
「酷いこと言わないでよー。遊びに来たのよ。あ、これおみやげ」

手に持っていた小さなケーキの箱をナオに渡すあや。電話も無しでの来訪にナオは戸惑いを隠せなかった。
若いのに腰が重い、インターネット接続が一日の殆どを占めているInternetGirlのナオが遊びに来る。これは誰が考えても明らかにおかしい。

「何かあったの。今日発行日でしょ。終ったの」
「まだ」
「まだって、今日広告入っていたんでしょ。出さない訳いかないじゃない」
「だって・・・書けないんだもん」

7月-8月周辺は特に広告依頼が多い。お中元商戦に向けて大きなお金が動く為、各サイト共売り上げ増にかなり必死なのである。このシーズンが過ぎるとその次に需要が多くなるのはクリスマス、お歳暮の季節の12-1月である。そのお陰で今月のあやのメールマガジンの枠も殆ど埋まってしまっているのだが・・・ぶはーっとクッションに顔をあて、倒れ込むあや。
しかしナオは冷静に言い放った。

「お金前金で貰ってるんでしょ。それはマナー違反だよ」
「もう2時間も椅子に座っていたの・・・でも何だか今日は浮かばなくて」
「じゃあ、ここで座りなさい」

あやを立たせて無理矢理パソコンの前に座らせるナオ。

「ひー」

と言っては両手をばたばたとさせ、赤ちゃんの様に必死で逃げようとします。

「マック嫌い。私ウインドウズしか分からない!」
「わがまま言わない。私の目が黒い内は椅子から立つ事は許しません」
「ひー」
「プロになるんでしょ。プロになりたいんでしょ。だったらスランプ何かで絶対に逃げない。岩にかじりついたって書かなきゃ駄目!たかがメルマガなんて絶対に言っちゃいけない。スポンサーが居て、お金を貰っているんだからね。広告を貰うって事は原稿にも責任を持つということでは無いの?」

そうだった・・・と雷に撃たれたように体を軽く動かし、驚いて思い出したことをコントの様にアピールする。
そしてその後目を閉じながら大人しくキーボードに付いた電源を入れました。隣ではナオが鬼婆のように腕を組んで立ちすくんでいる。

時間だけが静かに何時間も流れて行った。漏れる息の音さえも抑えるようにナオはあやを見守る。

原稿用紙にして5枚足らずの内容。
それを書くのにこれだけの時間がかかるとは・・・額の汗をぬぐいながら、あやはずうずうしくもこう、一言言い放った。

「スランプの恐ろしさが始めて分かった。もう広告なんていらない」
「広告だけじゃないの。あなたの原稿を待っていてくれる読者の人も居るんだから。
その人たちはどうでもいいの」
「どうでもよくないです。
はい」

夜中の11時に原稿が完成し、ようやく配信。内容的には満足というレベルまで推敲する事が出来なかったが、これ以上していてもらちがあかないと、日付が変わる前に配信予約を設定。ようやく長い一日が終ったのだった。

20.ゲストライター

「色々なものを書いてみたい!!!」

何を突然、と高校の教室できょとんとした顔をするナオ。
つい先週はスランプで"もう書くのは嫌だ〜"と騒いでいた人間が何を又突然。
迷惑な事を。

「やっぱり色々なジャンルに書いてみると言うことはすごく必要な事だと思うのね。今は日記形式のものとコラムしか書いたことないでしょ。もっとグローバルな視点で物を書く人間になってみたい!」

なら何故お前は理系に進んだんだ?と突っ込みを入れたいナオ。

「どうせもう私に相談する前に何か手を出したんでしょ」
「うん。あっちこっちのメールマガジンでライター募集している所に応募した。
当然ノーギャラだけど今は何でも勉強だから」
「ジャンルは?」
「一応内定したのが、メールマガジンガイドという所これはメールマガジンを紹介するメールマガジンで、もう一つはアンチ・マイクロソフトというメールマガジン。
これはニュース系になるんだ」
「どっちも初めて書くジャンルだね。頑張ってよ!」
「あ、あきれて言っているでしょ。でも頑張るから!又スランプになったらフォローお願い」
「それは厭―――」

チャイムの音が二人の会話を遮ります。
秋風が窓の外をするすると流れて行く。
移り行く季節と人の流れに流されつつも、必死に負けないように走りつづけるあや。
それがナオには心配の種でもあり、楽しみでもあるのですがあまり無理だけはして欲しくないと思う今日この頃なのだった。

「西日が・・・カーテン引かなきゃ」

(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)

ゲストライターとしての執筆を開始したこりない人間の代表のようなあや。
メールマガジンガイドの方は月3回メールマガジンの紹介及び各テーマに基づいてのコラムを執筆し、アンチ・マイクロソフトの方は週1回、コンピューター関連のニュースを執筆する事になった。
カレンダーに締め切り日を赤いペンで大きく書き込みながら首を傾げるあや。これからは週の4日間は必ず原稿を書くことになる。

「うっしゃー。頑張るぞー」

21.仲間

ゲストライターとしての執筆が始まった。
自分のメールマガジンで無いため、めちゃくちゃに書くと没になる可能性がある為、あやは自分のメールマガジンに比べ、推敲にはより時間をかけるようになってきた。
ああじゃない。こうではない、と書き終わってから、何度も何度も原稿に手を入れます。そして"寝かせる"という作業を繰り返します。原稿を書き終わった後、数時間置いてから又読んで、推敲して、又置いてという推敲作業。数時間おくと自分が書いた文章であっても全くの別物に見えてくる為この作業はある意味文章の品質向上に非常に役にたっていた。

「自分のメルマガより2倍は時間がかかっているかもしれない」

そして新しいジャンル"ニュース"ということ。
自分の思い込みを入れず的確に少ない文字数で表現を行うと言うのは意外に大変な事である。
1つのニュースは5行以内という制約にあやは1週間経っても、2週間経っても中々慣れることができなかった。

「新しいジャンルを書くと言うのは口で言うよりかなり大変な事なのかもしれない」

しかし、辛いことばかりではなく、楽しいことも増えてきました。その他そのメールマガジンに参加しているライターさんと友達になることが出来たのがその一つ。
先方は友達とは思っていないのかもしれないが、テーマ決めや原稿についての相談など、メーリングリスト(メール版の掲示板のようなもの。一人が発言するとその発言を全員がメールで受け取ることができる)で話し合う事がこんなに楽しい事だとは、あやには考えもつかないことだった。

「ライター仲間って楽しい!」

ゲストとして参加していると、そのメールマガジンの発行日と言うのは待ちどうしくて仕方がありませんでした。
そして発行が終った後は、ああでもない、こうでもないとメーリングリストで話し合う。執筆の苦労よりも仲間を得た喜びにあやは日々浸っていたのだった。

「これで締め切りが無ければ言うことないんだけれど」

締め切りが無ければ誰もまじめに書かないような気も・・・

22.休刊

楽しい日々はあまり続かない。
それは何時、どこででも同じ事で。
所詮素人の烏合の集団とは誰も言わないだろうけれど、号数が進むにつれて、締め切りを守る人間が少なくなって来ました。
編集長もノーギャラで書いてもらっているという引け目からか、特に原稿を催促するという事もせず黙ったまま。発行日の前日にようやく原稿が到着したり、しなかったりという状態。

そんな状態が続いている内に、一日何十通と流れていたメーリングリストを流れるメールの数も一日ゼロ、一通も流れないというような事が続いた。執筆を始めて半年、メーリングリストに突然編集長から突然驚愕の内容のメールが届いたのだった。

「やる気が無くなったのでやめます」

あ、久しぶりにメーリングリストから・・・と思って開けたあやの目はメールの一行目の内容に釘付けになってしまいました。え、何?。更に文章は続く。

「皆様の原稿が遅れるに連れ、自分の中で"何をしているんだろう""これは本当にやりたい事なのだろうか"と考える日々が続きました。突然で申し訳ないのですが、次号を最後に休刊をさせて下さい。もしかしたら半年後、1年後に又この"メールマガジンガイド"を再開するときが来るのかもしれません。そうしましたらまたこのメーリングリストにメールを出します。だから廃刊にはしません」

状況が理解できず、呆然とするあや。
"やる気が無くなった"???休刊するということはクビしかし、まだ連絡のあったメールマガジンガイドの方は良心的でした。もう一つ参加していたアンチ・マイクロソフトの方はあやへの通知は全く無く、突然メールマガジン上で休刊の通知が発表されました。その内容は短く端的に、

"休刊します。短い間でしたがありがとうございました"

やはり状況が理解できず、発行者に何度もメールを送ったのですが音沙汰は全く無し。通告無しでの突然解雇と相成りました。それぞれのメールマガジンの読者数は1000人を越えており、あやの主催するメールマガジンはその読者数の半数にも及びません。

「参加しているライターを何だと思っているんだ!!!!」

あやは思わず窓の外に向かって大声で怒鳴りちらし、関係ない第三者に向かって口害をまき散らすのだった。
心の奥底から"馬鹿野郎!"と言ってしまいたかったのだが、やる気が無くなった人間に鞭を打っても何が出来るわけでなし、と思い、メーリングリストには了解の旨連絡をした。
窓の外には冷たい北風が流れている。
もうすぐ季節は冬を迎えそうである。

23プロへの道

季節が過ぎていく間に、メールマガジンというのが世間的にもかなり認知されて来るのを感じた。
当たり前の様に発行システムからの依頼により、へこへことNHKのテレビ放映のアンケートに答える。ふっと気が付くとアンケート内容に統一するテーマがあるような気がしてきた。

それは、

メールマガジン作家はプロ作家への登竜門!

という目に見えないテーマである。そんな事誰も考えていないと思うが・・・とアンケートを書き進める。

・メールマガジンを書くのは原稿を書き溜める為である。
・ 既にプロ作家として歩き始めている

などなど。

あやの体の奥の方でむくむくと余計なものが刺激されて来る気配がした。気が付くと発行は50回を越え、読者数も798人と、あやの中の目標"1000人"に到達する勢いだった。

そうした中、あやは刺激的なメールマガジンを発見した。

それは、

「あなたも本を出版できる!」

と言う題のマガジンである。内容は、全く出版社とのコネが無い作者が本を出版するまでの経緯を書いているのだが、これが又面白い。
まず、本屋さんに行って関連した書籍を出している出版社を探し、電話番号を控える。そして、編集者に直接電話し、原稿を読んでもらうと言うもの。
苦戦した事、"こうした方がいいのでは・・・"という内容が事細かに書かれている。
遠い未来ではあっても将来的には作家を目指しているあやには刺激が強すぎてしまった。

「私でも本出せるのかな・・・」

そんな事を考えながら、あやは毎日ふらふらと本屋さんに寄るようになってしまいました。メールマガジンの内容と同じく、ポケットから小さな手帳を出し、さささっと電話番号と出版社名を控える。
一応お店に気を遣って、雑誌を開いて内容を覚えて、雑誌を閉じてから手帳を取り出す。と言う作業を繰り返す。恥ずかしいのでなかなか進まないが、それでもついに10社程の出版社をリストアップすることに成功した。

「これがプロ作家へのスタートになりますように・・・」

世の中そんなに甘くないと思うが。あやは手帳を握り締め空の星を見詰めたのでした。空の星座は既に夏の星座から秋の星座へと変わり、夜遅くにはオリオン座まで見えるようになってきていました。
発行を開始してはや半年。
あやは又新たな転機がやって来ようとしていました。

24アプローチ

家に誰も居ないのをキョロキョロと確認して、あやは電話の前に座ります。
出版社の名前と電話番号の一覧表を手帳から作成し、その上にはメモ用のボールペンを置いています。
そして意を決し、あやは電話をかけはじめました。
ツルルルルル・・・冷たい電話の呼び出し音が受話器に響きます。
1コール、2コール・・・「はい○×出版社です」

「もしもし始めまして。お世話になります。私・企画の持ち込みをしたいのですが、お話の分かる方に変わって頂けますか?」
「はい・・・」

持ち込みをする人は意外と居るのか、電話を受けた人間は特に驚くことも無く電話を繋いだ。

「はい。
お電話代わりました。用件は?」
「はい。私インターネットベースで、メールマガジンという形で半年ほど連載をしていたのですが、この度50回を越えまして、もしかしたら本にならないかな・・・と思いまして、もしお手数で無ければ原稿をお送りしますので、読んで頂けますか」
「もう原稿が出来ているんですね。いいですよ。お待ちしています」
「ありがとうございます。すいません住所は・・・」
「はい・・・ええっと。○×△■です。私は佐伯と言いますので送って下さい。お待ちしています」
「ありがとうございます」

ツーツーツー。
あっという間に電話が切れる。通話時間は1分も無かったのではないだろうか。
調子にのって次々とリストアップした出版社に電話をかける。本を印刷するのみで原稿の受付をしていない出版社と、あやの書いているジャンルを扱っていない出版社以外は皆原稿の受取りを快諾。余りにもすんなり話が通ったのであやは返ってびっくりしてしまった。

「これから印刷が大変だけど・・・でも出版業界ってこういうもんなんだ」

高校卒業と同時にプロデビューする自分の姿を想像して、にたにた笑いが止まらないあや。その夜は、行き付けの本屋で自分の名前が印刷された本を手にしている自分の姿の夢を見たのでした。

「ペンネームって考えなきゃいけないのかな・・・困った困った。むにゅむにゅ・・・」

後日同じ時期に同じ原稿を別の出版社に送るのはマナー違反である事を知るのだが、現時点ではそれを教えてくれる人は側に居ない。

25.反応

出版社に電話をしてから1週間が経過した。
毎日郵便ポストを確認し、電話の音にドキドキしながら日々を過すあや。しかしそろそろ不安になってきたのだった。

「私の原稿どうなってるのかな・・・」

自分の原稿は我が子も同然。嫌な予感を感じながら、それでも良い返事が貰えることを信じて待つこと更に一週間。あやはついに意を決して原稿を郵送した出版社の担当者に電話をすることにしました。
担当者名が記入された手帳を取り出し、電話のナンバーを押下します。

ツルルルル・ツルルルル。

受付の人間がすぐ出たので、事情を説明すると、担当者がすぐ受話器に出て来た。

「はいもしもし。お電話変わりました」
「もしもし。あの、私2週間ほど前に原稿を送付させてもらった者なのですが・・・全くご連絡を頂けなかったので、もしかしたら原稿が到着していないのかなと思いお電話を差し上げたのですが」

常に低姿勢のあや。弱気なのが口調からも担当者に伝わって行くようだ。

「あーはい。今日原稿をそちらに郵送したところです。感想も付けておきましたが、読んでいただくと分かるのですが、今回は本にするのは難しいと思います」
「え」

言った言葉の次に、"やっぱり"と付けたかった。

「こういった"体験記"の様な原稿は、有名人が書いたものなどでないと中々出版は難しいのです。後は特殊な体験をしたとか、面白い事件が起こったとか、今回の原稿にそれほど魅力を感じませんでした。又何か良い物が書けたらご連絡下さい」
「は・・・はい」

カシャン・と電話を切るあや。
そしてそのまま、夢遊病者の様に原稿を送ったすべての出版社に電話をしました。結果は燦々たる物夢も希望もあったものではなかった。

「残念ですが、今回は無かった事にして下さい」
「面白いと思いますが、やはり"売れる本"ではないと思います」
「又何か良い物が書けたらご連絡下さい」
「当社はこういった種類の本は出していないので、残念ですが」
「担当者は外出しています(その後何度電話しても担当者は出ない)」

やっぱり、世の中甘くない。

受話器を置き、トントントンと二階へ上がっていくあや。

全滅。

全く良い話は無かった。歯にも櫛にもかからないというのはこういう情況を言うのだろうか。一人コンピューターの前に両肘をつき、両手で頭を抱えた。手が冷たい。
頭が明らかに発熱しているのが分かる。ショックで頭がオーバーヒートしているのに違いない。自分の実力を過大評価していた。思い違いも甚だしかった。

「あーあ。やっぱりそう簡単には行かないか」

窓の外は木枯らし一番が吹き荒れ、冬の寒さが肌の奥まで染み込むようになってきていた。気分を変えようと窓を開け外を見る。夏と違い通りの排気ガスは2回の部屋まではやっては来ない。冷ややかで寂しい空気が、あやの肺を満たして行く。
頬に当たる冷たい風を右手で拭い指先で泣きたい目を押さえながら、あやはこう力強くいつもの合い言葉を叫ぶのであった。、

「でも、負けない!」

26捨てる神あれば、拾う神あり?

学校にて、出版社への持ち込みが大失敗に終った事を、ナオに報告するあや。がっくりとしながらも、立ち直ったのか、語気はくっきりと、しっかりしている。

「まあ、1回の失敗でクヨクヨしていたら、キリが無いから。もう少し頑張って投稿してみるつもり」
「頑張ってね。私も友達が小説家だったら鼻が高いから。それで、進学はどうするつもりなの?本気でプロ作家を目指すの?それとも???」
「うん。予定通り学校推薦で理系の大学を目指す予定。やっぱり物理が好きだから。小説はそんなに焦らないで、ゆっくり、ゆっくり書いていくつもり」
「そう、その方がいいかもね」

二人笑顔で合図を送る。ギスギスばかりしていたら人生つまらない。切羽詰まらないでもう少しゆったり考えよう。今度は自分の書いている分野の出版社を狙うのではなく、Web関連の事業を起こしている出版社に狙いを定める事にした。

「ここの出版社はメールマガジンも出してるのか・・・ふむふむ」

数社をリストアップし、記載されていた電話番号に電話をかける。
ツルルル・・・いつもの通り受付の女性に事情を説明し、原稿持ち込みの旨を伝えます。この作業も大分手慣れて来た。

「・・・現在50話を迎えて、本にならないかなと思いお電話を差し上げたのですが、もし宜しければ原稿を読んでいただけないでしょうか・・・」
「それは構いませんが、当社はそういった分野の本を出していないのですが・・・それでも宜しいですか」
「お願いします。御社はWeb関連の事業を幅広く行っていますので、もしかしたらご理解いただける部分があるかと思いまして・・・」
「そこまでおっしゃるのであれば、分かりました。原稿お待ちしています」
受話器を切り、もう一社に電話をした。
「・・・・」
(事情を説明)「分かりました。バックナンバーなどホームページに掲載していますか」
「あ、はい」
「URLを教えて下さい。はいはいはい。
http://www.home-ikeda.com/ですね。はい。繋ぎました。メールマガジン。ありますね。はい、あ、バックナンバーありました。ここで50話全てがダウンロードできるんですね」
「あ、あのその」

想像するに、どうやら投稿の担当者はWeb上からあやの原稿をもう見ているらしい。
初めて電話をかけたばかりなのに・・・

「あの。原稿送りますけれども。その方が見やすいと思いますが・・・」
「大丈夫ですよ。これで。原稿を読みまして又ご連絡します。メールアドレスははい。ここにあるから大丈夫です。では」

大して話さずに電話は切れた。
最新の投稿方法は違う!!!と勝手に納得しながらあやは受話器を置いた。
1週間後、なんと1社から電話が!!!

27出版社と打ち合わせ!!!

大事件発生か!!!原稿を送って1週間後、AAAクリエイティブという出版社から電話がかかってきたのだった。
すっかり原稿を没にされるのに慣れきってしまっていたあやは、電話がかかってきた事実をなかなか頭で理解することが出来ず、呆然と立ちつくしてしまった。

「原稿読みました。しかし、以前お電話でお話した通り、当社はこういった分野の内容を出版した経験がありません。本を出す、出さないというような具体的な話では無く、今後そう言った形にしていこう、という事でお話を伺う事はできないでしょうか」
「ありがとうございます。喜んで伺います。本当ですか!!」

両手で受話器を押え笑顔のあや。
第一ハードルクリア!具体的な話でなくても構わないから、まずぜひ出版社の人に会ってみたい。そんな思いで早速打ち合わせの日付を決め、新しいスーツを買い、一刻千秋の思いでその日を待ちました。
打ち合わせ当日白いスーツできりっと決めた。
高校生のあやには全く似合っていないが、そう言った事は全く問題ではない。
待ち合わせの駅で相手からの電話を待つ。待つ事15分。電話がかかってきた。

「はい。あやさん私も今渋谷の駅に着いたのですが、今どこに居ますか」
「今田園都市線の券売り場の前に居ます。白いスーツを着ています」
「分かりましたー今から探します」

ノリの良い兄ちゃん。そんな印象だった。数分して目の前に現れた人物はラフそのもの。土曜日の出勤であるからということもあるのであろうが、ジーンズに青と黒のダウンジャケットに白いシャツといった普通のイデタチ。

「出版社の人だからと言って何だか特殊な人間だと思いすぎてたかな」

軽く挨拶を交し、導かれるまま近くの喫茶店へ移る。
名刺を交換し合い、(あやは自分のプリンターで昨夜作った)あやは丁重にノートを広げます。とにかく今日は勉強。言われた事を出来るだけ書き取っておこう。と思ったからである。

「戦闘開始!」

考えすぎ。考えすぎ・力の入れすぎ。

28現在の出版業界

「正直、すぐ本にできるという話では無いのです。まず最初に言っておきますが」
「分かっています。私はこういった出版社の方とお会いするのは始めてなので、何でも勉強だと思っています。色々とお手数ですが教えて下さい」
「いえいえ、そんなに丁寧に言われてしまうとこちらも困ってしまいますが・・・」
注文したアイスコーヒーが運ばれてきた。ごくりと一口飲み、出版社の男性は続けた。
「現在の出版業界ははっきり言って不況です。昨年は最低発行部数が5000と言われていましたが、正直言って現在は最低発行部数は5000ではなくて3000の物も多くなっています。やはり売れる本でないと、出したくても出せないと言うのが現状です」
「印税ってどの位なんですか」
「ピンきりです。5%〜10%と言った所ですか。でも"本を出したいので印税はイラナイ"なんて人も居たりします。本を出して儲けようと思うのは大きな間違いですよ」
「分かってます」

具体的な数字が並び、胸のどよめきが収まらな。
とすると発行部数
3000部*1000円*0.05=15万円!
理系だけに計算は速い。

「どうですか、びっくりしましたか」
「いえいえ、勉強になります。それで私本を出すとその会社の本が安く買えるという噂を聞いたのですが本当ですか?」
「一応7掛け(定価の7割)で買える事になっていますが、タダではないですよ」
「というと、自分の本も買わなくてはいけない」
「やはり売ればお金になるものですから、タダにはなりませんよ」
「そうですよね・・・」

知識が無い物だから・・・

29.打ち合わせは続く

出版社との打ち合わせ内容は多岐に渡りった。
あやの基本知識が余りにも無い為、一つ一つ確認するかのように、何時間も打ち合わせは続く。
本の基本サイズは四六版と呼ばれるA4の半分のサイズであるということ、1Pの文字数は大体700文字であり、大体1冊は200Pになると言うこと、など。

「現在あやさんの原稿は、大体の計算ですが、大体90000文字でした。1冊の本にするには原稿が足りないのです」
「原稿が足りない・・・」

1冊に必要な文字数は、700*200=140000。
つまり現在はようやくその64%に達したに過ぎないのだ。
原稿が足りないなどという自体をあやには想像だにしないでいた。

「それから長い期間書かれていますよね。ですから話によっては言葉尻を直したり、文章を削ることが必要です。それから視点が少しつづ変わって来ているのも気になりました。メールマガジンとしては十分だと思いますが、本にするのであればこの辺も全て直さなくては・・・」
「視点ですか」

考えてみれば、始めはただの自分の意見を書いていたに過ぎなかった様な気がする。最近は自分を他人の目で観察しているように文章を書くようになってきていた。

「それと題名です。High School GirlRecordではどうしても売り場に並んだときにパワーが弱いです。もっと始めて見たときに目に留まる様な題でないと」
「目に留まる題ですか」
「本の命はまず題名です。これで売れる本か、売れない本かまず決まりますから」

語気柔らかく始まった打ち合わせが段々佳境に入り、きつい内容となってきている。
自分の原稿の否定、ずっと使っていた題名の否定、あやは正直ショックを隠せなかった。

「あまり驚かないで下さい。この位は当たり前の事ですから・・・。しかし私が言いたいのは、あやさんの原稿を見て、"おもしろい"と正直思ったのです。
で、当社で扱っていないジャンルではありますが、是非お会いしてお話をしてみたいと思ったのです。本を出すのは暫く先の話になるかもしれません。しかし、私はあやさんにパワーを感じたのです。今後良い話ができるように、お互い頑張っていけたらと思います」
「ありがとうございます」

最後に一番救われた様な気がする。気が付くと時間は2時間を経過していました。
進歩とは言えない進歩かもしれない。でも勉強にはなった。かな。

こうしてあやの初めての出版社との打ち合わせは終了したのでした。
「でも、何だかすっきりした。明日から又頑張るぞー」

30メディアデビュー

「で、結局デビューはしないのね」
「早々世の中甘くないのよ。でも楽しかった。これからも頑張って行こうかなーと言う所かな結論としては」
「こりないのねー。でも、そんなあやをあたしは好きよ」

いつも通り、高校でナオに報告をする。人に話をする事で、自分の中でまとまっていなかった内容が理解できるようになってくる。これからもがんばって行こう。

そんな事を考えながら今日もまた高校から帰ってきてパソコンの電源を入れる。
既に大学入学を自己推薦制度で決めたあやの受験はもう終ってしまっていた。
後は卒業までの2ヶ月間をのんびり・のんびり・過ごすだけとなっていた。

「今日のメールは何通入っているかなー」

調子に乗って大量のメーリングリストに加入したあや。
意味不明なメールの海の中に不思議な内容のメールを発見した。

"インターネットで
料金を踏み倒された人募集。

インターネットで金銭のやりとりを行って踏み倒されたことがある人で、雑誌の取材に応じても良いという人を募集しています。
ギャランティはお支払いしませんが、雑誌に載ると言うことで仕事をしている人は広告効果が期待できます。
これはと思われた方は自薦他薦を問いません。
是非一報を!"

そういえば私もメールマガジンで広告掲載をした時に料金を踏み倒された事が・・・雑誌の取材、取材する側になりたいのだけれど、もしかしたら何か良い経験になるかもしれない・・・返事を書かなくてはならないメールが大量にあるにも関わらず、その広告へ返事を早々に書き始めた。

高校在学中にメールマガジンを始め、ヘッダに指定通りに5行広告を掲載したのに
も関わらず、コトゴトク料金を踏み倒された事。
斡旋業者とのやりとりが、全てがメールでのやりとりであった為、結局20回以上掲載したのに1円も支払われず終ってしまった事。
その後自力で営業を行い、現在は軌道に乗っていることなど。
最近上達してきた文章力をフルに活用し、メールを作成した。

「採用してー。頼むよー」

かくして、1週間後、なんと返事が来た!

31カメラマン&ライター

雑誌社からのメールは以下のような内容であった。

「メールありがとうございました。
多数の候補者の中から貴方に取材をお願いしたいと思います。
つきましては電話番号および住所のご連絡をお願いします」

え、本当に?本当に?ドキドキしながらも早速メールに電話番号と住所を記入し送信した。こんなに簡単に採用されて良いのだろうか???すると2時間も経たずにあやの家に電話がかかってきた!

「もしもし、×××出版社と申しますが、あやさんはいらっしゃいますか?」
「はい私ですが」
「メールありがとうございます。早速取材をお願いしたいのですが今週末の土曜日 など如何でしょう?雑誌に顔を出すことには同意して頂けますか?」
「もちろんです。こちらに来られるのですか?」
「土曜日にカメラマンとライター2人で伺います。どうでしょう?」

どうでしょうも何もない。大喜びで了承するあや。かくして、時間はあっという間に過ぎ土曜日。雑誌の出演前に髪を切っておきたい、エステに行ってみたい、きちんと化粧をしたい、出演用の服を買いたい・・・と心の中の要望は沢山あったものの、何一つ果たせず、当日。

"本当に"あやの家に大きな荷物を持ったカメラマンとライターがやって来た。
まず名刺交換。以前出版社の人間と会った時に作成した名刺を渡す。まずは踏み倒された理由、事情を説明した。その間カメラマンは大きなライトをつけ、パシャパシャと写真を撮り始めた。シャッターの音が部屋に響く度に顔が強張るあや。
とたんにカメラマンの声がかかる。

「作り笑顔やめてください。自然にお願いします」
「は。はい」

意識しないようにすればする程、顔が強張るから不思議だ。苦笑いを繰り返すカメラマン。あやの背中には冷たい汗が流れてきた。

「思ったよりこれは大変だ」

32ライターの条件?

取材は続く。
「料金を踏み倒された一番の理由は何だと思いますか」
雑談から取材の内容も核心に入ってきた。あやの発言は全てMDテープに保存されている。がもうすでにそんな事は全く気にならなくなっていた。

「お金を受け取ると言うことを恥ずかしい事だと思ってしまったのが、一番の失敗であると思います。お金の請求をすることは恥ずかしい事である、と自分で勝手に判断してしまった事と、契約書を作成しなかった事。など今考えれば理由は沢山あると思います。これらの失敗を良い勉強だと思い、今後活動していきたいと思います」
「というと、これからも活動は続けていくつもりですか?」
「勿論です」

取材が終った。
カメラマンはがたがたと機材を片付け始めている。あやにとってはこれからが本番。
テープを止め、ペンをしまったライターに根掘り葉掘り、質問責めを開始した。

「ライターになるのに条件ってあるんですか」
「ん??」

怪訝そうな顔をするライター。しかしあやの真面目そうな顔を見て、笑顔で答えてくれた。

「別に無いですよ。"私はライターです"と言ったらもうそれでライターですから。しかしそれで食べていこうとすると物凄く大変ですがね。基本条件としては、正しく日本語が書けることですよ。後は無いです」
「日本語が書けること?ですか」
「ライターなんてそんなもんです。日雇いで1枚いくらで書く事の方が多いですから。ヤクザな商売ですよ。では、今日はありがとうございました」

あ、ちょっと待って、もっと聞きたい事があったのに・・・殆ど聞くことができずに取材陣は帰って行った。雑誌の発売は今日から2ヶ月後になるとの事。
掲載誌は郵送されるとの事だが、どういった内容になるのかあやには全く想像がつかなかった。後姿を見送って、又パソコンの前に座った。
「こんだけ緊張してノーギャラかー。辛いねー」

33.何故か続く取材

1度取材を受けてからと言う物、何故かあやに取材依頼が殺到!というと言い過ぎになるが、数回連続してやって来た。
形式は大体インターネット経由でのメールである。
そしてあやが「ok!」を出すと、数日後、取材陣としてカメラマンとライターがやって来るのが普通なのだが、時には人が全く来ない、"自分のプロフィールと成功経験談、写真を添えて送って下さい。ギャラは規定によりお支払いできません"という文章だけの事もあった。

「規定でギャラが払えないとはどういう意味なのだろう???」

首を傾げながらもライター希望のあやは必死に文章を作成し、郵便で写真を送る。
そうして数ヶ月して見本誌のみがあやの所に届くのだが、これはこれで嬉しい。
大事にそっと、本棚の奥に仕舞い込む。
新本に付けられたオレンジ色の本の帯がなんとなく誇らしげに見えてくるから不思議だ。

「しかし、どの本も書かれる事は一緒ね。答えるのもつまらなくなってきた」

異口同音にインターネットビジネスの失敗談、成功談を聞かれる。
最近はマニュアルでも存在するかのように"ライターが望んでいるだろう答え""内容"答えるようになってきていた。

「そろそろ取材もあきたかなー。意外と時間かかるし、拘束されるし」

贅沢な悩みだ。正直雑誌に載ったからといってメールマガジンの広告が増える訳で無し、ギャラが入る訳で無し、然程有名になる訳でも無し、なのだ。

そんなあやに始めて雑誌の"座談会"出席の依頼が来た。
やはりギャラは無しであるが、テーマは"メールマガジンの未来について"と得意分野である。その他多数のメールマガジン作家が集まるとのこと。
出席予定者一覧を見ると、あやも購読しているメールマガジンの作者が数人名前を連ねていた。

「一度会ってみたいと思っていたんだ。これは面白いかもしれない」

インターネット上で知り合った人間が、実際に会うことを"オフ会"と言う。
出版社への交通費を考えると全くの赤字であるが、あやは直に快諾のメールを出し、数日後、座談会へと出かけて行った。服装は一張羅の白いスーツ。

「編集社で仕事の依頼とかあったらどうしよう・・・」

と無用な心配をしながら、電車は渋谷に向けて走り出して行きました。

34メールマガジン作家座談会

会場には少々早く到着しました。

受付を済ませ、会議室でコーヒーを買い飲みながら待つ。段々ドキドキとしてきた。
会った人に渡す為、手製の名刺を机の上に置いておく。5分もしない内に副編集長があやの前に姿を現した。軽く挨拶をして名刺交換。その後はぞくぞくとライターが集まってきた。あや以外は全て男性。太った人間、痩せた人間と言う違いはあるが、当然の事ながら、全く普通の人間ばかりであった。

「いまどき、インターネットやっているのはオタクばっかりと言う事はやっぱりないわよね」

副編集長がポケットからMDを取り出し、ディスクを入れ替えてから録音ボタンを押す。ライターが手で記録するのみでなく、音声でも記録を取る様だ。
副編集長が音頭を取り、座談会が始まった

まずは自己紹介から。

職業はフリーライター、学生、サラリーマンなど多岐多様。最初は中々会話が繋がらなかったが、流石に何ヶ月、何年以上もメールマガジンを発行しているツワモノばかり、自己主張が強い、強い、15分も経たない内に会話はどんどんヒートアップしてきた。

「メールマガジンは、とりあえず面白そうなものがあったら登録する、その精神は良いのですがその後解除の仕方がわからず作者に失礼なメールを出す人間が多い。
"無料で最高のサービスを受けるのが当たり前"という人が月に必ず数人は居ますね」
「それは言えますね」
「大量にとって、目次だけ読んで内容を読まない人間がどれだけ多いことか・・・受け取って、ごみ箱へ。ごみですよ。ごみ」
ドキっとするあや。そう言われてい見れば、読者数は1000人を超えたのに、反響メールの何と少ない事か。
最初の人数が少ない頃の方が反響メールは多かったような気がする。
「とにかく水増しは良くない。ホームページをきちんと作って、まめに更新して、友達を増やして、リンクをして、と順序を踏んでいかないと、良い読者は揃いません」
「でも読者が増えないと広告は取れないですよ」
「現在1000人とか2000人程度では広告はまず取れない。無駄な努力ですよ」
ぽんぽんぽんと刺激的な話しが飛び交う。
何か場違いなところに来てしまった・・・と思いながらも会話に熱く参加しているあやなのでした。
「メールマガジンてそんなにまじめにやらなきゃいけないものですか?楽しければ良いのでは?」

35インターネットの魔物

座談会は続く。

「メールマガジンはある意味ステータスだと思うんです。友達も出来るし、"お前はどういう人間だ?"と聞かれた時、"メールマガジンを読んで下さい"と言えば最高のプレゼンテーションになるじゃないですか」

力説するあや。一同うなずく。

「誉められると嬉しいよね」

と相づちを打ってくれる人も居る。ようやく意見を言えるようになって来た。
「批判メールもある意味、しっかり読んでいるから出来るわけで、ある意味それも嬉しいんですよ。しかし、最近思うのはメールマガジンの質が落ちたこと。数だけ増えて中身が無い物があまりにも多すぎる」
自信満々に語る太めの男。
"メールマガジンはゴミ"と言っていたのも確かこの男だ。
この時点であやはようやく「この人おかしい」
と気が付いた。
先ほど貰った名刺を見てみる。
本名ではなく平仮名書きでハンドル名が書かれているではないか???後日、人伝えで聞いたのだがこの座談会に出席していた太めのM氏はニフティサーブのパソコン通信の時代から綿々と続く古参のネットワーカーであったのだと言う。性格は決して好意的では無く、彼に潰された掲示板、メーリングリスト、サイトは枚挙に暇が無いと言う。どうりで意味不明、根拠も無しにに自信満々であった訳だ。
"彼のメールマガジンに書かないかと誘われた"とメル友に話したとたんに絶縁状が届いた事も・・・そんなに酷い人なのか?とあやは考え込んでしまった。

「現在メールマガジンの有料化を考えている人は居ますか」
「ありませんね。有料化にしたとたんに1/10に減って、まず二度と増えませんね。
そして有料化したメールマガジンと同様のサービス、内容のものを無料でやる人間が必ず出て来る。間違いない」

独り舞台。

決して言っていることは間違っては居ないのだが、何故かあやの胸にムカッと来るものがあった。そして彼は最後にこう言って座談会を占めた。

「ともかくこれからは淘汰の時代ですね。新規に登録をしても以前ほど大量の読者を獲得出来なくなって来た。読者が"メールマガジン"が飽きられてる部分もあるのだと思います。バタバタ潰れていうと思いますよ。今後」

決めつけないで欲しい。自己表現をするのは自由なのだから。評価して欲しくて発行しているのではない。儲けたくて発行しているのではない。
座談会が終わり、あやは一人会場を後にした。
ぴゅーっと冷たい風が吹き荒む寒空にベージュのコートの襟を立てながら。
実になったような、ただ不愉快であったような。
とにかく、しばらく座談会には出席したくないな。と思いつつ、あやは家路へ向かったのでした。

後日このいばりくさったメールマガジン作家はハッキングされたサイトを助ける傍ら、「助けてやったんだから、金をよこせ」と強迫してしまい、警察に事情聴取を受け、裁判沙汰になってしまったのだという噂を聞いた。3万人居たメールマガジンは廃刊状態となり、Web上に放置されている。"自分が一番偉い"と思いすぎていたのではないだろうか。黎明期にメールマガジンマガジンの発行を開始し、先駆者として品質の良いメールマガジンを発行していた事は評価出来るが、その後、後続のマガジン作家を育てようとせず、自己主張するだけして、けなし、いじめ、最後は"強迫"すると言う手段に出た作家を許す者は誰も居ない。

36ライターとしてだけでなく

あやは個人検索サイトにてメールマガジンライターの募集を発見した。
2行ほどの簡単な募集に当然のようにあやは応募。
人からは「自己表現が上手い」と誉められるようになってきた文体。応募は何と30人にも及んだそうだが偶然?実力?であやは採用された。採用された人数は何と4人!採用率は13%という狭き門であった。

「最近まず落ちる気がしない」

調子ノリノリのあや。
他にも3万人規模のメールマガジンライターとしても採用(メールマガジンライターとしての経験をメール小説にて連載)。商業ベースのニュースサイトライターにも採用された。こちらは何と1回5000円のギャラが出る!週に1回であるから大した金額にはならないが、"お金を貰って文章を書く"という快感と程良い緊張感にあやは酔いしれていたのだった。

「でもまだプロじゃないよね。セミプロと言った所かな」

しかし問題は個人検索サイトのライター募集である。一体何を書くのかさっぱり分からない。
あやの目的は"色々な文章を書いてみること""プロのライターになること"である。
1週間程して、検索サイトの主催者からようやくメールがやってきた。"実は新しいメールマガジン・配信サイトを作ろうと思って居るんです。それはプレーンテキストのメールマガジンではなく、MHTMLという新しい形式で作ってみたいと思っているのですが、参加して頂けますか?"MHTML???聞いたことのないフォーマットに戸惑うあや。HTMLに余計なMが付いている。
タイピングミスでは無いだろうか???文章は続く。

"このサイトは不特定多数の人間が発行するまぐまぐの様な物ではなく、こちらで企画した確実に読者の集まるクオリティの高いメールマガジンを発行する物を考えています。つきましては何か良い企画はありませんか"

自分で企画を考えられる。これはいい。と、悩むあや。

ここの所あやが注目しているのは学習系のメールマガジンであった。無料で資格試験などの情報を流してくれるこれらのメールマガジン。絶対に需要がある!あやは学習系のメールマガジンの企画書を作成した。このジャンルであれば、統計的に考えても確実に5000人は集められる。5000人の読者と言えばかなりの人数ではないだろうか?企画書を送った翌日。検索サイト主催者の高柳さんからメールが来た。
そしてその内容は驚くべき物であった。
一部抜粋すると、

"これでは駄目です。読者が集まりません。私が考えるジャンルであれば、10000人集めてみせます"

一万人?????????個人が集めて??????一体どうやって!一番頼りになる新着情報には絶対掲載されるかどうかは分からないと言うのに・・・

37読者数1万人?

結局あやは旺盛な好奇心には勝てず、自分の企画を撤回し、主催者の高柳さんが用意した企画書に基づいてメールマガジンを創刊する事を決断した。

「1万人集めて貰おうじゃないか」

駄目だったら辞めるとか、そういう意味では無いのだけれど。配信サイトを他のメンバーが整備し、メールマガジンを発行するのは主催者、あや、そしてもう一人草川さんと言う学生さんと言うことになった。

「とりあえず3誌でスタート。今後は調子を見てどんどん増やして行きたい」

予定では初回に3万人集まる予定だ。
時間をかけて企画を練り、創刊!一体どんな手段で読者を集めるのか。
まぐまぐ等であれば"ウイークリーマグマグ"など紹介メールマガジンに掲載して貰い、読者を集めるのだが・・・あやは一人悩んだ。

そして創刊当日、理由が分かった。
あやが購読しているプレスリリースのMLに以下のようなメールが流れてきた。

"MHTMLメールマガジン創刊!創刊記念キャンペーンとして抽選で高性能デスクトップパソコンをプレゼント!"

懸賞だ!懸賞で1万人集める気だ!しかし集まるのか????あやも新しいパソコンが欲しいので当然応募。ドキドキしながら毎日の配信を続ける。あちこちの懸賞サイトでも紹介され、その紹介を見た読者はアンケートに回答し、希望者にはメールマガジンを送付するという仕組みであった。
 
「すっすごい。これはプロの仕事だ」

読者は最初の約束通り、きっちり1誌1万人を確かにカウントした。
パソコン1台で読者3万人、あやは自分のメールマガジンの読者数はようやく1000人に到達したばかり。メールマガジンの分野では相当知識者であると思ったのに・・・こんなやり方があったとは・・・

「とにかくすごい!手品みたい!」

38.新しい形式のメールマガジン

MHTMLメールマガジンの発行がついに始まった。
毎日あちこちのホームページを巡回しては記事を集める。あやが担当したのはComputerNewsというメールマガジンだ。

名前の通り、コンピューター関連の最新情報を掲載するのだが、今までのように個人の日記を公開すると言った形式ではなく、どちらかと言えば個人的な意見を押さえた堅い内容。こういった形式を書くのは初めてでは無いが・・・「日刊はキツイ・・・」
毎日せこせこ何時間も記事を集めては書く。

それだけでは無く、画像と記事を両方メールマガジンに掲載する為、画像サイズを小さくする為減色方法を研究したり、内容を検討したりと試行錯誤が続く。

しかしそんな苦労は大した苦労では無かった。ある意味、いや結構楽しかった。
購読者数が多いせいか、読者から"誌面をこうして欲しい""ああして欲しい"という様な反響も毎日多数寄せられた。フォーマット決め、仕様固めにあやはとにかく必死でした。

「でも、これだけは本当に冗談抜きできついんだよね」

一日一度それらを受信する時はさすがのあやも弱音を吐いてしまう。そう、それは俗に言うバウンスメール。

分かりやすく言うと"エラーメールアドレス"についての処理をする時であった。
懸賞応募の際に入力して貰ったメールアドレスが根本的に間違っていた人が相当。
そして使用不可となって購読解除しなかった人、携帯電話では受け取れない形式のメールマガジンですと銘打って居るのに、携帯電話のメールアドレスを登録した人、などなど理由は様々。

一日に大手プロバイダのサーバーが落ちた時などは100通を越えるバウンスメールがあやのメーラーを急襲する。これは何とかならない物かと主催者の高柳さんに問い合わせるも、"将来的には一括処理するようにするけれど・・・当面は手動でお願いします"との事。奏功あやも腹をくくった。ダイアルアップ接続ではもう収拾がつかなくなってきたので、CATVの常設回線を自分の部屋に引き、通信環境を整える事にしました。

両親への説明は非常に難しかったが、"そうしないと、これ以上電話代がかかるようになるけれど・・・"というあやの説得に結局応じる形でCATV回線はあやの部屋に引かれる事となった。

「でも早く自動でこのバウンスメールを処理してくれるようにして欲しい・・・」

あやの切なる願いであった。

このバウンスメール処理から解放されたのはMHTMLのサービスが開始して半年以上経ってからの事であった。理由は思ったよりバウンスメールの種類が多く、対応しきれなかった事と、原稿を作成し、大学に行きながら開発を行うというのは思ったよりも時間がかかったというからに他ならない。

メールを配送するだけのシステムであれば、ちょっと勉強しただけの大学生でも作れるかもしれない。しかしエラー処理を全て処理しきれるシステムとなると・・・これはもう経験しか無い。各ドメインから返ってくるメールを一通ずつ開封し、エラーのパターンを解析する。これは簡単に一日二日で作成が出来るような代物ではなかったのである。

39.解除依頼

創刊して一週間も経っただろうか、毎日の解除の甲斐あって、バウンスメールの処理は大分落ち着いてきました
それと入れ替わりでか、今度は解除依頼メールが毎日休み無しでやって来る様になった。

「解除」

と書いてあるだけで、どのメールマガジンを解除して欲しいのかは全く記載されていないメールや、全文引用してあるだけのメールなど、あやの理解を超える解除依頼メールが続いた。

「こんな要領のでかいメールなんて送ってくるな!」
「何考えてやってるんだ!馬鹿野郎」

などと語気荒いメールも多い。
今までの自分のメールマガジンのように"解除依頼は一切拒否します"と言うわけにもいかず、当初は解除した後は丁寧に"今までご利用ありがとうございました"とお礼メールを出したりしていたのだが、数が多すぎるのと、余りにも不愉快で、段々機械的にただ削除するようになっていった。

世の中にはやはり"HTML"メールに対する風当たりはまだ強い。
プレーンテキストのメールマガジンに比べやはりファイル容量が多い=ダウンロードに時間がかかる=通信費がより多くかかる→よくも余計なことやりやがったな、という事であろうか。

読者数も酷い日は一日100人もの解除があったりと、非常に変動が激しい。
そしてついには1万人を割り込んでしまうようになってしまった。

「私の内容が悪いのかな・・・結構頑張って書いているつもりだけど・・・」
「いや、懸賞で集めていますからね。始めはやはり減りますよ」

高柳さんは早々と次の読者集めの懸賞プレゼントを開始した。
しかし、またしても読者が1万人増加!ということは無く、1万人台を回復した、という程度であった。しかしあやにとって鼻高である事が一つあった。
今回創刊された3誌の内で、あやの担当するメールマガジンが一番読者数が多いのだ。

「ささやかな幸せ・・・」

インターネット常設環境になり、すっかり快適環境でインターネットを楽しんでいるあや。試行錯誤はやはり続いている物の、ある程度の手応えは感じつつある今日この頃なのだった。

「これで何とか商業ベースに乗ればいいのだけれど」

メールマガジンの購読料は無料。
さてこれをどうやって商業ベースに乗せるのか。これはもう至って簡単な話であるのだった。

40.商業ベースに乗せるには

読者数が4万人を突破した時点で、無料広告募集の告知を行った。
無料で広告の画像バナーを掲載するという物だが、告知を行ったとたん、あれよあれよと広告枠が埋まっていく。そして、その次の週から無料広告掲載を開始しのした。

「効果あるのかな???」

やはりメールマガジンを商業ベースに乗せるとしたら、やはりテレビ等と同じように"広告収入"に頼るのが一番であろう。毎日発行されるメールマガジン。
それらのヘッダ又はフッタ部分に広告バナーを付け、商業ベースに乗せようと言うのでした。

効果は・・・あや達が想像していたよりもあったのだった。

プレーンテキストのメールマガジンに広告を掲載した場合、クリック率は0.
1又は0.05%以下である事が多いのだが、あやたちのMHTMLメールマガジンはクリック率1%以上、懸賞と組み合わせた場合は何と3%を記録した。

「これなら十分広告効果はありそうですね」

高柳さんの嬉しそうな報告メールがメーリングリストを流れる。はたして上手くいくのか。無料広告掲載期間が終了した後、1読者あたり2円、つまり一回広告掲載で2万円という価格を付け、HPに告知を行った。結果は・・・初期に数回あったのみ、商業ベースに乗せるにはほど遠い状態でした。

「とりあえず依頼が少ないので、広告募集はもう少し読者が集まってからする事にします」

高柳さんはそう決断し、広告募集は中断された。思ったように読者数が伸びない。
そしてもう一人のライター草川さんの動向が気になりだしていた。真面目に記事を書いていない。彼は面白いホームページを紹介するメールマガジンを担当していたのだが、すぐに休む。文章を書いても、やる気が全く感じられない。

そして、彼のメールマガジンの読者は目に見て分かるようにどんどん消えて行った。

「このままでいいのかな???」

もちろん最終的に商業ベースに乗せるのが目標だけれど、これでは本末転倒。
無意味なゴミを多数まき散らしていることに他ならない。

「あやが書いてるから、3誌全部購読してるけど、ホームページのメルマガはつまらないから解除したい」
「そのうち何とかする。私も執筆変わろうかなと思っているから」

更に執筆するメールマガジンを一誌増やすというのは自殺行為に等しい。
しかし、あやには納得がいかなかった。それは主催者高柳さんも同様であるらしかった。

「どうやったらもっと彼に真面目に書いてくれると思う?」
「お金を払えばだと思う」

無料だからなめている、とまでは言わないが、彼の気持ちを総合すれば、結論的におそらくそうなのであろう。
三人で始めたMHTMLメールマガジン。
発刊して1ヶ月を経過し、彼の存在が段々と大きな問題として浮き上がって来ていた。

41.ベンチャー

テレビには派手派手しくネットベンチャーの株式公開のニュースが流れている。
が、あや達のMHTMLメールマガジンは相変わらず貧乏所帯とまでは言わないが、無償でのライター活動が続いていた。

「ふー」

有価証券報告書によれば、ネットベンチャーの平均勤続年数は光通信が1年、ソフトバンクは0.7年、ヤフーが1.3年と何と成功企業においても勤続年数が2年も続かない事が報告されている。実業してきちんと儲かるベンチャーは100社中2,3社、上場して株を売り抜けたらやめようと考えている企業も多く、統計データによると何億とベンチャーキャピタルから出資を受け、特に本業で稼ごうとしないネットベンチャーが多いのだという。

「というかね、稼ぎたくてもそうそう稼げないって。ネットで稼ぐのは大変なこと!」

あやも友人から頼まれてホームページなども作成するようになったが、単価が安い上に、ホームページを作ったからと言って必ず儲かるわけでは無いし、お客が来る訳では無い。

懸賞を打ち、検索エンジンに登録して、更新をまめに行って・・・とするのが最低条件。それすら守らなければまさに"ゴーストタウン"と化す。
あやのリンクのページも時々ページがあるかどうか、確認しに行かないとリンクが切れている事もしばしば。前途多難。
先が見えないながらも発行活動は続いた。

「どうなるのかな・・・」

そしていつしか草川さんのホームページニュースの発行が無断で途切れた。
何度かメールをしてみるも連絡が取れない。高柳さんはパニック状態。
ある意味インターネットというのは顔が見えない為、メールでの連絡が取れなければある意味最後である。

「パソコンの故障ですよ。きっと。良くある話じゃないですか」
「それで1週間も連絡が取れないって事あるのか???」
その夜、新聞にはホームページにてソフトウエアを不法販売していた学生が掴まったニュースが流れた。
「草川さん???」

42.インターネットビジネス・手法

MHTMLメールマガジンの方は完全に暗礁に乗り上げた形となった。
あやは原稿を寄稿し続けてはいるものの、草川さんのHomepageNewsは完全に停止。
かなり辛い状況となってきたのでした。
しかし月に一度は読者集めの為に懸賞付きアンケートを行ったり、広告を出したりと活動は続いている。
"半年で10万人の人を集めよう。"
高柳さんはかなり強気だ。

「大手はお金をかけてバンバン広告を打っていますが、あれはお金がかかる割に読者が集まらないんですよ。時間はかかっても地道に懸賞で読者を集めた方が有利です」

ちなみに一番人が集まる懸賞は統計によると"車"、二番目は"高性能パソコン""デジタルカメラ"と続く。あやは人に頼まれ仕事としてホームページでアンケートを取ったが、その時の懸賞は"プレイステーション2"。
その時は発売したばかりであったからか、1万人を遙かに越える人数が集まった。

「4万円で、1万人集まるなら安いもんだよね」逆に懸賞がテレホンカードなどでは人が集まらない。あや自信のホームページで懸賞をした時は何と600人程度の人間しか集まらなかった。勿論、どの大手懸賞サイトに登録されるかと言うのも重要な問題であるのだが、段々にインターネットビジネスの手順というものが分かってきた今日この頃であった。

「色々やってみたけど、聞きかじりで真似しても上手くはいかないね。マーケティングは奥が深い。やっぱり私はノンビリ文章を書いている方が好きだなー」

と、今日もコツコツと原稿を書き続けるあやなのでした。やはりあやは事業家には向かない様である。

「来月には新しいメールマガジンを創刊しよう!」
 
でも、相変わらず懲りず元気である。

「負けないもんねーーー」

43.オフ会

インターネットは顔が見えない。
当たり前の事だが、あやはどうもそれに慣れないでいた。
顔を見たことも無い人と夜中に何時間も語り合う。
プライベートの話まで親にも話さないことを相談したりする、どうしても不自然な様な気がする・・・あやは、今までメールマガジン作家の座談会に出席したり、インターネットで知ったセミナーに出席したりといったことはあったのだが、この度、夏休みということも合間って、一緒にプロジェクトを進行している高柳さんに会いに、思い切って遠出をしてみることにしたのだった。

「で、何で私が一緒なの」
「一人だと寂しいじゃない」

ナオが膨れている。

高校を卒業して、ナオは短大、あやは4年制に進んだ為すっかり会う機会が少なくなって来てしまったのだが、やっぱり困ったときは何とやら。腐れ縁のナオを誘ったのだった。

「飛行機の往復、宿代朝食込みで29800円は安いと思うけど、何でそれが種子島なの???」
「そりゃまあインターネットだから。私もまさか九州だったなんて知らなかったのよ」

理想と現実はなかなか違う。一度高柳さんに会ってみたい。今後ビジネスを進めていく上で一度顔を見た、見ていないというのは大きく今後の進行に関わる事であると思ったのだった。

が、「やっぱり理想と現実は違うね。だって日本の端っこだもん」

始めてみる九州の風景。
インターネットがどれだけ便利な物であるかひしひしと肌で感じたのだった。

「どうりで発達するわけよねー。インターネットならワンクリックで鹿児島だもん。アメリカだってあっという間よ」

と福岡から種子島への高速船の上で、潮風に髪をたなびかせながらそう呟いたのだった。

「で、その会う人の顔は知ってるの」
「いや、全く。名前しか知らない。

携帯番号は聞いたけど・・・分かるかな???でもまさか平日に種子島に行く人間がこんなに多いとは思わなかったから・・・」
高速船には50人を越える人数が座っていた。高速船の名前は"トッピー"と言い、これは種子島の方言で"飛び魚"の意味であると言う。高速船が出来る前の速度の遅い船の定期便などでは、飛び魚の群に遭遇したり、運が良ければイルカの群に遭遇したりというハプニングがあるのだという。都会の人間からすると夢のような光景であるように思うのだが、種子島の人間に言わせると、イルカなどは大喜びして見るような物では無く、どこにでも居る魚と変わらない生き物であると言う。

「あいつらね、船を追いかけて、船から起きる波で遊んでいたりするんだぜ!」

水族館の人気者"イルカ"を"あいつら"呼ばわりである。そんな夢のような光景、是非見てみたいと思うが、そんな船を使用したら一体何時種子島に到着するか分からない。お金のない二人の種子島滞在時間は約4時間、果たしてターゲットの高柳さんに会えるのか、段々会えないような気がしてきた二人なのでした。

「胸に赤いバラを刺しておいてってどうして言わなかったの!」
「忘れてたんだってば!」

44.はじめまして

オフ会の為にはるばる種子島までやってきたあやとナオ。
しかし会うべき相手、高柳さんの顔は全く知らない・・・

(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)

高速船トッピーを降り、船着き場にすぐある建物へと向かう。高柳さんはあやと同年代の人間である事は分かっている。さて、見つかるかどうか。
キョロ・キョロ辺りを見回す。
自分たちと同じように人を捜している人は居ないか、

「きっとフィーリングで分かると思う。ぴぴぴぴっとね」
「・・・。分からないと思うよ。一人一人に話しかけて聞いた方が早いと思う」

ナオは計画性のないあやの行動にちょっと怒っている様だ。
くわばら・くわばら気が付くと建物を出てしまった。行き過ぎちゃった!と思ったあやの背中から声がした。

「あや、さんですよね。ごめんなさい。遅れてしまった・・・」
「え?」

振り返って見ると、眉毛が濃くて、色の濃い同年代とおぼしき男性の姿があった。
私の名前を知っている!ということは「高柳さんですか!!!!!!嬉しい!!!!!!会えないかと思った〜」
少し遅れてナオが建物から出てきた。不機嫌さをかくしながら恥ずかしそうに挨拶をする。そのまま誘われるままに車に乗り込む二人。

「良く分かりましたね」

というあやの問いに「何となくそうかなーと思いました」
と笑って答える。
普段メールで話している分、とっつきは早かった。つまらない船が揺れた話や、九州の食べ物が美味しいという話など。車の中の会話は途切れることが無かった

「今日はちょっと時化ってますね、海」
「関係ないけど、高柳さん色黒いですね」
「ほっといて」

そんな事を話に種子島に来たのか・・・

45.オフ会の意味

ようやくオフ会の相手と会うことが出来たあや。しかしあやは一体何をしに、本州の最果ての地と言っても過言では無い、種子島に来たのだろうか?

(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)

車はある料亭に到着した。
折角の東京から来てくれたのだから・・・と高柳さんはあやが今まで見たことのない高級料理でもてなしてくれた。生き伊勢エビの刺身やブダイの天ぷら、とにかくあやとナオは進められるまま食べた。食べまくった。

「まさか本当に来ると思わなかったからびっくりした」
「飛行機だからあっという間でしたよ。2時間だったかな?」

格安チケットで来た為、あやとナオは最終の船で帰らなくてはいけない。だからお酒は抜きの食事である。食べ終わった後は慌てて宇宙開発センターへ移動。
種子島と言えば鉄砲伝来とH2ロケット、折角来たのだから・・・と船着き場から1時間以上離れたロケット発射場へと向かった。すっかり観光気分を満喫するあや。
段々ナオは心配になってきた。

「ところで、あやはここに何しに来たの?」
「高柳さんに会いに」
「仕事は???」
「んん。会うのが目的。仕事はついで」
「!」

(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)(◎o◎)

時間はあっという間に過ぎ、最終船の出る時刻となった。
慌てて船着き場に乗り込む二人。
その姿を高柳さんは最後まで見送り、手を振っていた。

「これからも宜しくーーー」
「こちらこそー」

船の中で息を切らして落ち着こうとする二人。
滞在時間は6時間も無かっただろうか。
果たしてあやは目的を果たしたのであろうか?ナオは気になる部分であった。
側で見ていればただ遊んでいただけではないか???

「今回の目的は、高柳さんに会うこと。そしてどんな人か私が理解して、向こうにも"私はどういう人間です!"というのを知って貰うのが目的。仕事の話なんてついでに出来れば良かったの」
「本当に?」
「うん。わざわざつき合ってくれてありがとうね。一度会ったことのある人間と、そうでない人間との人間関係ってこれからやっぱり違うと思ったの。それだけ」
「ふーん」

納得できないナオ。しかしこの訪問後、あやと高柳さんとの信頼関係は3年以上経っても崩れることは無かったのはまぎれもない事実である。あやの考え方が正しかったのか、ただウマがあっただけなのか、本当の所は分からないが、ともかくその後ビジネスは順調に進んで行ったのは事実である。

「いや。違う。あやあんたは仕事をダシにして種子島に遊びに行きたかっただけでしょ」
「違うー」

普段の行いが悪いから。なかなか信用してもらえない。

46.インスタントな関係

つまらない行き違いから、ある日あやはメル友と喧嘩をした。

「今後一切メールはしないで下さい」

と絶縁メールがあやの手元に届く。通常の世界では考えられない位簡単に人間関係が出来、壊れていく。インターネット歴2年のあやはまだこのリズムに慣れきれないでいた。

「インターネットを使って恋愛をする人の気がしれないよ」

今インターネットで一番人気があるのは男女の出会い系のサイトであろうか。あやのメル友でもこういったサイトを利用して恋人が見つかったと言う話はかなり頻繁に聞く。最近あやはICQというワールド・ワイドなチャットに加入したのだが、これに加入するとその指定ソフトを立ち上げているだけで、その時インターネットに接続している人間から頻繁にチャットの申し込み等が入ってくる。
そしてそれは日本人に限らない。

「Hi! I'm 20 years man」
「???」

決して英語が得意ではない平均的な日本人であるあやは慌てて

「I'm so sorry . I cannot speak English」

とメッセージを送る。
繰り返していく内に、あやは段々ICQを繋がないようになってきていた。"古い人間"と言えばその通りなのだが、どうしても「わからない」その後喧嘩をしたメル友からの連絡は全く無かった。ハンドル名でやりとりをしていた為、彼女が今どこで活動しているかもあやには分からない。
所在不明、本名不明が当たり前の世界。意味も理由もはっきりと言えぬながらも、殺伐とした気持ちがあやの中を駆け抜けていた。

「考え方次第なのかなー」

あやも又インターネットの世界のインスタントな関係を受け入れるようになってきたのはこの後からである。

47.配信スタンド設立

MHTMLメールマガジンの配信を始めてはや一年が経過した。あや自身は大学二年生となり、インターネット等に対する知識も相当蓄積されてくるようになった。もう既に"ネット素人"では無い。

「ということで、僕プログラミング分からないから、あやちゃん後宜しく」
「え???」

と始めた配信サイトのバージョン数もついに3を数えるようになった。1万人配信するのに半日かかったバージョン1、1週間徹夜の末に完成した高速配信システムバージョン2、こちらは1万人を約2時間で配信する事が可能である。

「私も成長した」

ついに一般公開されるバージョン3これは1万人を約30分で配信する事が出来る、あやが作った配信エンジンとしては現時点で最高速度を誇る。HTMLファイルをMHTMLファイルに変換する方式も独自の方式を構築し、ビジネスモデル特許を申請する事にまでになったのである。

「これからもトラブルが多いかと思うけれど頑張ろう!」

高柳さんは相変わらず元気である。桜も咲き散る4月、無料MHTMLメールマガジン配信スタンド"メールデリバー"がようやくスタートした。オープンしてすぐ高柳さんにはインターネットの有名誌からの取材があったり、検索エンジン"ヤフー"からお勧めサイトに選ばれたりと配信スタンド開始におけるサイトの評価は思ったよりも高かった。オープン当初読者数はついに6万人、登録マガジン数も50を優に越えた。これは"MHTMLマガジンを出したかった潜在的メールマガジン作家"の需要がいかに高かったかを示す数字ではなかろうか。

高柳さんは取材の中で、今後は有料配信システムやオプトインシステムに進出する予定であると答えていた。順風満帆、しかしそうは上手くいかなかったのである。

48.オープンすれど

確かにスタートダッシュは良かったのだが、読者数の数はその後伸び悩んだ。登録されるマガジン数も然りである。オープン当初は週にかなりの数があったのに、オープンから2ヶ月も経過すると、週に1,2もしくは無いという週も存在するようになってきていた。

「以外と配信スタンド経営というのは大変な事なのかも知れない」

自作の全くデザインされていない管理ページを眺めながらそうつぶやくあや。確かに読者数の増加をグラフにしていると右上がりの綺麗なグラフになるのだが、よくよく一日あたりの配信数を計算してみると、これがサイトオープン時とそれ程変わっていないのである。続々と増え消えていく。数ヶ月分のデータをまとめてみるとそれらが如実に見えてきた。

「発行者の方のやる気を出してもらうにはどうしたらいいんだろう・・・」

残念ながらHTML形式のメールマガジンの読者登録者数はテキスト形式に比べ極端に少ない。もしかしたらその辺りがやる気を削いでいるのかも知れない・・・それでも発行してくれるライターさんに何かしてあげたい、とあやはメールマガジン紹介マガジン、"メルデリ・フリーペーパー"にお勧めマガジンコーナーを設け、それらに必死にコメントを書くようになってきていた。他社配信スタンドによくある"新着情報で紹介したら、それでおしまい"ではなく、その週発行されたマガジンのいくつかにスポットを当て、自分の言葉で紹介していく。この作戦はかなりうまくいった。数千人単位で出すマガジンのトップに掲載されるのである。運がよいマガジンは百人単位での読者増に成功する事が出来たのである。

「おおおおおおおおお」

一番びっくりしたのはあやである。自分の言葉の重さ、重要性にプレッシャーを感じるようにさえなっていた。自分の紹介文一つで、読者数が決まる。やりがいもあるが、怖さも当然存在した。

「地道な作業だけど、こうやって頑張るしかない」

海外から送られてくるダイレクトメールの殆どはHTML形式である。それはテキスト形式の白と黒のものとは違い、効果の程は歴然であった。"日本のメール文化は遅れている"いや、"HTMLメールは企業向けなんだ"理由を色々と考えつつも今日も又苦情メールやシステム管理に取り組むのであった。

「地道だねーIT産業ってのは」

政府が景気対策と言うとまず"IT産業が伸びてきて・・・"という事が信じられないあやなのでした。

49.引き合い

あやの予感は的中した。サイトがオープンして暫く経つと企業からの引き合いがかなり増えてきたのである。

「規約について質問があるのですが・・・」

どういった形であれ、良い方向に向く可能性があるのであれば、あやはいつでもウエルカムである。"メールデリバー"においては、読者が購読登録を行った際、興味のあるジャンルを選択して貰い、後日"オプトインメール"を送るというシステムを導入しており、この読者数もついに1万人を突破した。フリーメールアドレスを貸与する事でオプトインを収拾していた会社が1年かけてようやく1万5千人程度集めた事を考えると、これはかなり良いペースであると言える。

「そろそろ、オプトインのサービスを開始しても大丈夫かな」

一般的にオプトインメールは1通10-50円程度で請け負い、そのメールにマッチした情報を欲しい人に送るシステムの事である。前述したフリーメールアドレスによるオプトインメールの他に、ポイント制でプレゼントが貰えると行ったオプトインメールや、全くそういった事が無く、ただメールを送るだけのシステムも存在する。メールマガジンに広告を掲載するのではなく、読者にとって有益な情報のみを掲載する。これは運営者、読者双方に有益な事では無いだろうか。

しかし"オプトインメール始めました"と看板を出しても、早々お客さんが来るとは思えない。ということで、そういった"オプトイン斡旋会社"に登録を行う。ここに登録すれば、アフェリエイト(成果報酬型)になってしまうが、登録を行うだけで企業のオプトインメールを斡旋してくれる。まだ読者数がさほどでもないあや達には非常にありがたい話であった。

メールマガジン広告の分野でも、現在は

"クリック広告"
→広告をクリックした数によって課金を行う。
よりも
"アフェリエイト広告" 
→製品購入や、アンケート入力など成果が伴う広告

の方が増えてきているのも事実であった。無論大した金額にはならないのであるが

大手メールマガジン配信サイトにおいてはメールマガジン広告代理店に対して、1通4銭程度の配信料金を取る所まで出てきた。今までテラ銭を払わず、好き放題暴利を貪っていた広告代理店にも徐々に冷たい影が押し寄せてこようとしている。

「メルマガ作家は成果報酬。配信スタンドは部数課金かー。強い所と弱い所の差がありすぎだよね」

個人的に発行している"High School Girl Record"もついに3周年に突入し、読者数も3000人を越えた。しかし現在は特に広告等は入れていない。入れた所でまず成果があがらないことを誰よりも理解していたからである。せめてメルマガ作家も部数課金であれば、ある程度の報酬が見込めるであろうに

本を出すという夢もいつしか潰えて来ていた。日々の作業に没頭される毎日。そして高柳さんが本業が忙しくなったと言うことで、殆ど連絡が取れなくなってしまったのである。電話をすればある程度は答えてくれるものの、結局は一人で全て処理をしなくてはいけなくなってきていた。一人で投げるキャッチボールほどむなしいものは無い。

他社に目を向けても、メールマガジン広告代理店の株も公開当時350万円もしたものが、現在1/5、60万円程度にまで落ち込んでいる。その会社の社長は一番の高値で自分の持ち分の株を売り去り、大金を手に入れたのだという。(社長が多数の株を売り払った為暴落が始まったとも言われている)

メールマガジンがビジネスになる。それはそれで自分の趣味が実益とむすびつくのであれば、それはそれで良いと思った。がしかし、それらは大人のエゴによって大きくねじ曲げられ、後を追う人間の希望を押しつぶして行った。
そろそろ潮時か、あやはメールマガジンの分野からそろそろ手を引く覚悟を決めていた。「時期尚早。これからじゃない」という人も居るかもしれない。しかし今決断しなかったらまた、ずるずると「そのうち何とかなるだろう」的になってしまうような気がする。

一度決めた事が数分後には又揺らいでしまう。しかし人間引き際が肝心。あやは未練を引かれながらも決意を新たにするのでした。


50.さようならメールマガジン

「やめます」

久しぶりに鹿児島の高柳さんに電話をしたあやは真面目であった。「折り返しもう一度かけてもらえますか」と言って電話を切った後、前置きもそぞろにあやは切り出した。「今やめられたら困る・・・」相当慰留されたが、もうあやは決めていた。

「色々と楽しかったです。個人で出しているメールマガジンも今月で終了の予定です。何だか疲れちゃって、現在請け負っている部分は完成させます。でもその後は勘弁して下さい」
「え?え?」

「長い間ありがとうございました」

この言葉は高柳さんに言ったのでは無く、この3年間、自分がしてきた苦労に対してて労いの気持ちも籠もっていたのかも知れない。

電話を切った後は電話をかける前のイライラが嘘のように消えてしまっていたのに気が付いた。この3年間、やれることはやった。最後は配信スタンドさえも運営した。それで十分ではないだろうか。

ソフトウエアの開発については、法律で1年間動作を保証する必要となっている。その間にバグが発生した場合は対処する必要性があるかもしれないが、気になる事はと言えば、後はそういったメンテナンスの面だけである。お金さえ出せばあやの代わりは幾らでも見つかるだろう。そう思うとさらに気が晴れていく様な気がした。

ぷつっつとパソコンの電源を落とす。
これで明日、自分個人のメールマガジンの廃刊処理を行えば全ては終わりである。元の普通の大学生の生活に戻るのだ。

「さようならメールマガジン。色々な出会いをありがとう」

読者数数6万人以上、配信回数は優に1000回を越えた。

今後メールマガジンがどういった形態に成長して行こうと、あやはもう興味を持ちたく無かった。

「でも、楽しかったよ」

数年後あやは就職先が無くて困り、再びメールマガジンの世界に戻ってくる事になるのだが、それは暫く先の話となる。

「はー。これで毎日の原稿書きから解放される!やったね」

一週間はパソコンの電源を入れるのはやめよう。そう誓いながら階段を下に向けてあやはたたたっと駆け下りたのだった。

* 記載されている団体名及び名称は仮称のものです
この小説を読んで、何らかの損害を受けることになっても、当方は一切関知致しません。自己責任でお願い致します。

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