夢のオーストラリア大陸

 昨年末に第二子を出産してから、家で過ごす時間が長くなった。

 まだまだ免疫力が弱い赤ちゃんの為にも、むやみやたら人ごみの中に出る事は得策ではない。と思ったからだ。自然と趣味はパン焼きやビーズ細工など椅子に座ってする事になって来た。食べたら無くなってしまうパンと違いビーズ細工は作品が何時までも手元に残るのが一つの魅力だ。近年「スワロフスキー・クリスタル」と呼ばれる宝石のようなカットビーズが人気であり、類に漏れず私も少ない小遣いをやりくりしてはビーズを購入し、ネックレスや指輪などを作って楽しんで居た。順風満帆。悩みなんて無いでしょうと言われる事もあるが、私の勿怪の悩みは娘のアトピーだった。

「かゆい……かゆい……」

 と布団の中、肌を掻き毟りながらのた打ち回る事は無くなったが、白い肌が露出したあちこち赤く発疹が出ており、常に薬を塗っておかなければならない状態。「現代病だから仕方が無い」と言う人も居るが家族にしてみれば切実な問題である。そして生後三ヶ月にして赤ちゃんもアトピーを発症。第一子より第二子の方が症状が酷いと良く言うが、全身真っ赤に晴れ上がり、血を撒き散らしながら暴れるその様は慣れているとは言え見てはいられない。

「どうやったらアトピーが治るんだろうね」
 
 娘がそんな事を聞いてきた時、私は脈絡も無く

「空気が綺麗で、元気良く遊べる所に行ったらすぐ直っちゃうかもしれないよ」

 と答えた事があった。とたんに目を輝かせる娘。「どこどこ、それは一体どこにあるの?」「行く。私は絶対そこに行く。そしてアトピーを治すんだ!!!」私の他愛も無い一言に娘は燃え上がった。俗に転地療法と言う物だが、確かに空気の良い所に行くと呆気なく直ってしまうと言う報告例はいくらでもあるのだ。

「ねえ。そこの場所は何と言うの?」
「オーストラリア」
「それはどこにあるの??」
「ママがやってるビーズあるでしょ。あのビーズを作っている国だよ」

 子供的にはオーストラリアと言えばカンガルーを含む可愛い有袋類かもしれなかったが、私には大好きなスワロフスキーの産地と言うイメージがあった。現地に行けばきっと安く買え、アトピーは治る。夢広がり娘と私はパンフレットを集め、世界地図を壁に張りピンでシドニーに赤いマークをつけた。ここに行けば直るんだ。娘は完全にそう信じていた。

「赤ちゃんがもう少し大きくなって飛行機に乗れるようになったら行こうね」
「ママ絶対だよ。そうしたら全部治っちゃうからね」

 そんなお金どこにあるのだろう。赤ちゃんの成長に負けぬようコツコツ貯金をしなくては。憧れのオーストラリアの大地に向けて、我が家の目標は今一つになりつつある。