虹色タンポポ

 ある日みきちゃんはママにこう尋ねた。
「ママ、どうしてタンポポの綿毛はふわふわして可愛いの?」
「だって真っ黒で、ごつごつしていたら誰もふーって吹いてくれないじゃない。誰でも楽しくふーって種を撒いてくれるよう、白く優しくしてるんだと思うよ」
「ふーん」

 春の青い空に舞い上がるタンポポの綿毛は頼りなげで、目を閉じてぱっと見ると天使が空から舞い降りてくるようだ。みきちゃんは道端に咲くタンポポの合間から綿毛を取っては口の前に置き、空に向って吹き続けた。

「じゃ、もしタンポポの綿毛がピンクだったら。どうなるのかな?」
「そうしたら大変だよ。皆白じゃなくてピンクの綿毛が欲しくなってしまうのかもしれない」
 
 みきちゃんは頭の中に白とピンク色の綿毛を想像した。どう考えても白よりピンクの綿毛の方が吹いてみたいに違いない。

「それはいいアイデアだと思うけど、どうしてタンポポさんはそうしないのかな?」
「そうすると、大変だよ。次は男の子の為に青い綿毛のタンポポが出来るかもしれないし、猫が好きな子の為に黄色とクロのシマシマタンポポが出来るかもしれない。そうすると子供たちの間で喧嘩になってしまうじゃないか」

 野原一面、水彩絵の具を落としたような色とりどりのタンポポの姿を想像した。もしそうだったとしたら……全種類吹いてみたくなるに違いない。

「いいよ。大丈夫だよ。そうしたらみきが全部吹いてあげるから」
「でもね、そうしたら皆ふーって吹かないで、大事にお家に持って帰ってしまうかもしれないよ。そうしたらタンポポさんは種が増えないで困ってしまうんじゃない?」

 ビニールに綿毛を詰め、せっせこ家へと運ぶ子供達。確かにそんな事をしてしまったら、今までのように好きなだけ綿毛をふーっと吹くような事は出来なくなってしまうのかもしれない。

「そっか。皆欲しくなっちゃうもんね」
「だから、タンポポの綿毛は白いんじゃない? 皆ふーっと吹くだけでお家に持って帰らない。これが一番ぴったりなんじゃない?」
「正解。ママそれが正解だよ」

 夕方が近いのか、空はピンク色に変色し、空を飛ぶ綿毛も同じ色に変わった。この景色をいつまでも見て居たいような、ママとみきちゃんはいつまでもいつまでもその風景を魅入っていましたとさ。