赤ちゃんのタオル

 赤ちゃんと言う生き物は生まれて直ぐは両手を使う事が出来ない。だから、鼻水が詰まったり、頬がかゆくなったりすると抱っこされた時、自然と母親の服に顔をなすりつけるようになる
「うわー又鼻くそつけられた!」
 と騒ぐ旦那はまだまだ初級者である。上級者? である私は常にあかちゃんがこすりやすいよう綿素材の、ボタンの付いてない清潔な服を着るよう心がけている赤ちゃんはまだまだ三カ月涎を拭こうにも首を動かす位しか、出来る事が無いのだ
「いいんだよ、こすっていいんだよ」
 止めるような無粋な事はしない。鼻水が付くと言っても然程多い量では無いのだ。特に我が家の赤ちゃんは発疹が酷く出ているので、かゆいとどうにも止まらなくなってしまうらしいのだ。
 騒がしい春休みが終り、幼稚園の進級式。流石に今日は旦那は休む事は出来ず、娘、赤ちゃん、私と三人で幼稚園へと向う事となった。私はベビーカーを押さなくてはいけないので、スーツは着れないけれどせめてまともな格好をしよう。と上着だけ、春らしいモヘアの半そでセーターを身にまとった。
 ようやく娘も年長さん「はい」と答える声もしっかりして来た。我が家の赤ちゃんも大人しくしている……大人しく抱いている赤ちゃんの顔を見ると、何度か首を振った後触り心地を確認してから、ずるずる涎をセーターで拭き始めた。
「いつもと感じが違うけど、これでもいいかんじ」
 モヘアのフカフカ感覚は赤ちゃんの好みに合致したらしい。いつもより激しく首を振り涎を吹き飛ばして居る。良かった。良かった。幼稚園で大泣きされたらどうしようかと……

 ではなくて

「こらーーーお出かけ用のセーターで鼻を拭くな!!!」」
 私が胸で止めようと赤ちゃんに刺激を与えると、更に調子が乗って来たらしい。全身をゆすって他に興味を逸らそうと私がしてもブルブル赤ちゃんの動きは止まらない。かくして新品セーターの一角は鼻水でズルズルになってしまった
「買ったばっかりだったのに……」
 ある程度拭き終わった後、満足したのか赤ちゃんはニンマリと赤い顔を持ち上げ微笑んだ。聖なる母の優しい胸は赤ちゃんにとって移動手段であると共に、顔を拭くタオルも兼ねているのだった。