歯は口ほどに物を言う 〜北朝鮮拉致問題の一つの真実

 小泉総理の歴史的な訪朝から、拉致被害者の帰国。
 連日ワイドショー、ニュースを含め様々な報道が為されている中で、何が真実で何が言わされている事なのだろうと考える事が多々ある。

「彼らはこうして二十五年の長きに渡り生き抜いてきたのだから、真実を語らない事について我々がとやかく言うことでは無い」

 北朝鮮からの日本人妻が帰国した際、”家にテレビが無い”と発言しただけで、大問題となった話は有名であるが、北朝鮮に戻る事を考え、そう簡単に彼らが真実を語る事は無いだろう。それは自分自身の体及び家族を守る為至極当たり前の事であり強制すべき事では決して無い。

 飛行機のタラップから降りてきた浜本富貴恵さんの笑顔を見た時、日本人の誰しも安堵感を覚えたのでは無いかと思う。屈託の無い笑顔に私もかなりホッとした。と同時に気になる事があった。彼女の口の中に歯が少なくとも一本無かったのだ。

「急に帰国が決まったので歯医者に行けなかったのよ」

 後日彼女は友人にそう説明したと言う。タラップからはその後続々と拉致された人達の姿が見え、最後には確か唯一夫婦で帰国と成らなかった曽我ひとみさんが降りてきたと思う。笑顔で手を振る彼女の歯も酷かった。男性の拉致被害者が比較的綺麗な歯並びをしている事に比べ、女性の歯並びが酷かったのだろうか。

 まず一つ上げられるのは女性は閉経などにより骨を作るバランスが崩れ、破壊のスピードに形成が追いつかなくなり、男性よりも脆くなっている事が考えられる。女性は若い頃からカルシウムとビタミンDを多く含む食材を定期的に取る事によりこうした現象を最小限に食い止める事が可能であるが、おそらくは”北朝鮮では最高級の暮らしをしている”と揶揄される彼らの生活とて決して甘くは無い事が歯を見る事で想像される。無論それだけで歯が悪くなってしまうとは到底考えられないが。

 脱北者の体験談などを紐解くと、歯ブラシは何年も大切に使う事が当たり前であり、歯磨き粉などは殆ど存在しないのだと言う。日本の昔話などでは歯を川の砂で磨く話が出て来るように、物が無い、食糧不足で歯磨き用品にまで手が回らない訳では無く、元々歯ブラシで磨くと言う習慣が無い為に、余り出回っていないと言う事も十分に考えられる。

 中国の偉大なる指導者故毛沢東主席の回顧録には専属医の指導で何度も歯をブラシで磨くように言われたのにも関わらず、「虎は決っして牙を磨かない。それなのに虎の牙は何故鋭いのか」と食後にお茶で歯を漱ぐだけの生活習慣を止めることは無かったと言う。これは中国の農民などに伝わる一般的な歯の洗浄方法であるそうだが、結果歯なみは黒ずみ、抜け落ち、1970年初頭には既に上側の歯は全て抜け落ちて無かったと言う記録が残っている。

 歯が抜け落ちてしまった原因は美食と歯の管理を怠った事であったと考えられている。
 しかし我々の記憶や写真に残る故毛沢東主席の写真に”歯が無かった””黒かった”と言う印象は無い。その理由は簡単だ。口を開いて居る写真を見る事が少ないからに他ならない。熱い上唇が口の中を覆い隠していたのだ。人は口を閉じていた方が集中力が増し、大きな力を出す事が出来るのだそうだ。しかし近年普通に立っているだけでも口を開いたままで居る子供が増えて居ると言う。

 これは赤ん坊の頃に加えるオシャブリの習慣が残っているからだと言う学者も居る。口を常に半開きにし、口で呼吸を行う。統計結果によると日本人の子供の約半数がこの傾向があるのだと言う。その結果として出っ歯となり免疫力が低下する。単純に口が開いていれば中が見えるであろうし、テレビなどでアップになれば中を覗かれても仕方が無いと言えるのかもしれない。思い出してみると浜本さんは確か記憶に残る出っ歯であったと思う。

 バランスの取れていない栄養と管理不足による歯の欠落。歯が一本欠けるだけで噛む力は通常の六十パーセント程に成ってしまうと言う研究結果も近年発表されている。最上級の生活をしている彼らが今の状態であると考えると、その下の”成分が悪い”と言われる日本人妻達の生活はどうなっているのだろうか。今年の冬は越せるのか? 手遅れにならないのか? 疑問は膨らむばかりである。

 人の口を無理矢理塞いでも長い年月の結果として見えてくる物がある。今後事件の真相が解明されるに連れ、時間はかかるかもしれないが、想像だけでなく彼らの閉ざされた口から貴重な情報を聞き出す事が出来るのかもしれない。一方的な報道だけで無く事件全体を見詰めて。拉致家族の皆様の幸せを心から祈りたいと思う。