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成長曲線と言う正義

「池田さんこれは困りますねえ。平均よりも体重が足りないですよ」
「え、これはたまたま夏休み明けで、体重が減っているだけなんですけど……」

 三歳半検診の際、娘の体重は幼稚園に通っていた頃よりも一キロ程落ち込んでしまっていた。普段であれば大した問題にはならないのであろうが、検診などの際はこの一キロが明暗を分ける事がしばしば存在する。

「四歳になったら再検診に来て下さい。小人病やホルモン異常である可能性があります」
「ホルモン異常!」

 同時期に検診を受けた友達の娘は体重は娘と同じで、身長が一センチ小さい為成長曲線のギリギリ下に乗り、再検診は免れる事となった。母親の私が幼年期チビで育って後日問題が無かった事を強調したが、聞き入れてはもらえなかった。

「みきたん普通なのにねえ」

 半年後の再検診の際、私は一計を講じる事にした。そう。私の母子手帳と一年間の幼稚園での検診結果を持っていく事にしたのである。

「母親の私も成長曲線を外れていましたが、何の問題も無く成長しています」
「幼稚園でも問題ないと測定されています」

理論武装し、準備万端。しかも好材料としては、娘が春休みぐうたら、のんびり過ごした為通常よりも二キロ程体型が増大していたのである。身長は前回よりも一センチ伸びた程度である事を考えると、今回は小細工をしなくても、勝てそうな気配である。

「今回は大丈夫。無事合格するはずだよ」

 久しぶりの検診に娘は少々緊張緊張気味。身長体重を計り問診を受ける。書類提出の準備は万端である。もう絶対に異常だなんて言わせない。

「あの…… これ……」
「池田さん。これは困りましたね」
「私も小さかったですから、大丈夫です」
「違います。今回は太りすぎています。見てください成長曲線を飛び越えてしまっています」
「え、今度は太りすぎ???」
「困りますねえ。肥満度1.5%です。これは大きな問題です。半年後再び検診してください」
「いえその。これは春休みぐうたらに過ごしたからこうなってしまっただけで、実際はもう少し痩せているんですけど……」
「はい、じゃ半年後また来て下さい」

 一言も言い返すことが出来ず、私と娘は帰路についた。

「一体今度はどうしろって言うんでしょうねえ」

 半年後の検診は夏休みが終った後に訪れる。果たして次は何と言われるのであろう。成長曲線と言う正義にどうも振り回されすぎていると思う今日この頃なのであった。

「でもあんたはダイエットしないと駄目だね。確かに太りすぎてる」
「え?」

[完]

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