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娘のクッキー

「はい、ホワイトデーのお返し。お前ら喧嘩するといけないからな。
二人に一箱づつ買ってきてやったぞ」
「パパありがとう!」

 バレンタインデーに贈った五百円のチョコレートのお返しにと、私と娘は旦
那から二千円を優に超える某有名菓子店のクッキー詰め合わせを頂いた。ホク
ホク顔で封を開ける。中には普段食べられない高級クッキーの数々が並んでいた。

「美味しそう!」

 その日から、私と娘は一日三〜四枚づつ、三時のオヤツにクッキーを食べる
ようになった。一箱づつある為喧嘩になる事も無い。そんな日が一ヶ月も続い
ただろうか、娘よりもより多く食べる私のクッキーの箱はあっという間に空に
なってしまった。

「お前らまだ食べてるのか? クッキー駄目になってしまうぞ」

 娘のクッキーだけが残っているのを見て、旦那も心配そうに声をかける。し
かし娘は頑なにそれ以降クッキーを食べようとはしない。駄目になったら勿体
無いから、悪魔の囁きに負け夕方のお腹が空いたある日、私は娘のクッキーの
箱を開け、中に入っていた一番美味しい紅茶のクッキーを一枚口にしてしまっ
たのだった。

「分からないって。大丈夫・大丈夫」

 それでもちょっと気が引けたので、公園から泥だらけになって帰ってきた娘
に声をかけた。

「たまにはクッキー食べたら? お腹すいているでしょ?」
「そっかー。じゃ食べようかな」

 戸棚に仕舞い込まれていたクッキーの箱を大事そうに取り出す娘。分からな
い分からない。大丈夫……

「紅茶クッキーが一枚無い! ママこれはどう言うこと!」
「え、どうして? 何で分かったの」
「だってみき、全部一枚づつ取っておいてたんだもん。紅茶のクッキーの所だ
け空っぽになってしまっている」
「パパよパパ。パパが食べたに決まってる。今日夜帰ってきたら怒っておくから」
「パパが。ママしっかり怒っておいてよ! みきの食べちゃいけないって」

 目の前が真っ暗になった。まさか四歳の子供にこれほどの記憶力があるとは、
後日お詫びに別のクッキーを買ってあげようと思ったが、この事件があってか
ら既に二週間が経過するが、実行には移していない。

 とほほほ。まさかみつかるとは。自爆。

[完]



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