ライン




協力出版の謎を追え! 

 現在出版業界は不況の真っ只中に居ると言われている。

 以前は初版で5000部刷られていた物が現在は3000部、酷いときは2000部と言
う事もあるそうである。そのせいであるのか、文庫本であるのにも関わらず10
00円に近い異常に高い書籍などが本屋などに並ぶようになってきた。「あ、こ
の本面白そう」とは思っても、金額を見て目を疑い、早々に書棚に戻す事も少
なくない。

「何で文庫本がこんなに高いの???」

 かくして本探しは古本屋に場所を移す事となる。現在新刊本を売るよりも中
古本を売った方が利益率は高いのだと言う。かくして古本屋は大賑わい、よく
よく探せば出版されたばかりの真新しい書籍が複数並ぶ事も現在では決して珍
しい事では無くなった。

「取次店が在庫となった本を大量に流しているみたいですよ。ほら、だから注
文票もそのまま付いているでしょう」

 通常書籍を作る場合は初版本が全て売れ、初期費用が賄えるように作られて
いるそうである。しかし現在返本率は非常に高く、断裁される本も少なくない。
先月買うのを断念したのだが、やっぱり買おうと思い本屋に再度探しに出かけ
ても、既に書棚に並んで居ない事も少なくなくなった。

「あれ? 先月確かにここに置いてあったのに???」

 これは出版社側が一冊あたりの売上数が落ち込んだ事を本の種類を増やす事
によってカバーしようとしているからであると言う。じゃ、いいやと思ってい
るとあれよあれよと絶版になってしまう。「この本面白いですよ」「役に立ち
ますよ」と人に紹介をしても、実際に買おうとした時に既に手に入らない。何
だか最近書店にはハリーポッターなどベストセラーと呼ばれる本以外は回転率
が異常に高くなってしまったような気がする。気のせいであろうか。

 今回はこうした書籍不況の中、現れた新商法”協力出版”及び類似の商法に
ついて取り上げてみたいと思う。実際に私が出版社に応募を行い、机上だけの
情報だけではなく実に即した内容になるよう心がけた。是非お楽しみに!

文芸社
http://www.bungeisha.co.jp/index.html
新風社
http://www.pub.co.jp/index_2.html
健友館
http://www.kenyukan.co.jp/
ハート出版
http://www.810.co.jp/
ししゃもの日記(実際に協力出版した人の日記)
http://i-shishamo.hoops.jp/
yahoo掲示板 出版社との共同出版自費出版、経験者の方!
http://messages.yahoo.co.jp/bbs?.mm=GN&action=m&board=1835006&tid=bdph
gbcra4ha4n6a6f1bdphgbcabhqbdphga1a27p83bcta4njfda1aa&sid=1835006&mid=1


----------------------------------------------------------------------


 そんなある日、ふとしたきっかけで、書籍不況の中、息の荒い出版社を発見
した。何と大幅赤字から三年で黒字に転換、ついに自社ビルまで立てたと言う
のである。一体どんなベストセラーを出したのだろうか、と思い目録を見てみ
るが、自身の記憶に残っているようなベストセラーの題名が書かれた書籍名は
存在せず、”個性豊かな協力出版”という文字が躍っていた。協力出版。一体
どう言う意味だろう。私は非常に不思議になった。

 調べてみるとつまりこうだ。

 通常書籍を購入する場合、読みたいと思う人間がその費用を負担する。つま
りお金を出して書籍を購入する。協力出版の場合は出版する側が費用を負担す
る。”自費出版”の場合は作者自身が全額を負担するそうだが、建前上協力出
版は作者と出版社側が費用を負担しあう。と言う事になっているようである。
本当であろうか、

 出版社側から提示される費用は出版したい本の内容、装丁、ページ数などに
より違うようだが100万円から200万円と言った高額な費用である事が多いよう
だ。素人の本を出す以上書店側はリスクを負担しきれない、作者側にも費用を
負担して貰う事は仕方の無い事であるという考え方は当然あるとは思う。しか
しながら車が買えてしまう金額をそう簡単に出して良いのだろうか、協力出版
の場合初版の発行部数は五百部程度であるようである。例えばそれが全部売れ
たと考えた場合以下の式が成立する。

500*2000=100万円

 定価を一冊2000円以上に設定しなければ、初期費用をクリアできない。協力
出版された書籍の定価を見ていると、1000円前後の物が多いような気がするか
ら、作者は最初から赤字である。売上について5%前後の印税を支払うとあるが、
定価1000円で25000円、2000円で5万円である事を考えると、総費用に関して微
々たる物になってしまうのである。

 しかし印税に関して言うのであれば、出版社によっては印税率40%という高率
を保証している出版社も存在する。初期費用を負担しているのだから、当然と
言えば当然なのだが、そうした出版社の数はまだ少ない様である。初期費用は
丸々作者から受け取り、本が売れた分の利益も出版社が受け取る。これは儲か
るはずである。
 
 自分史をどうしても出したい。お金に余裕がある人間で書籍を出したいと思
っている人間にとって協力出版は非常にありがたい制度であると言えるのかも
しれない。しかし実際に初期費用だけでも回収しようと思ってもそう簡単には
いかない。例え初版が売れたとしても重版される可能性は1-2パーセントのみと
言う噂もある。大概の場合は一定期間を過ぎ売れ残った大量の本が自宅へ舞い
戻ってくる事となるのである。「出版された本は国会図書館に寄贈され、永遠
に保管されます」と言う宣伝文句もあるが、国会図書館に寄贈をする事は出版
社の法律上の義務であり、決して協力出版した場合の特典などでは無い。

 3年でビルを立てた会社は以上のようなビジネスを展開する事により成功をお
さめた。現在は2匹目のドジョウを狙ってか協力出版を唄う出版社の数も増えて
きた。新聞や公募ガイドなどには”協力出版”と書かれた広告が踊り、魅惑的
な勧誘文が並ぶ。無論そうした広告文を見て協力出版に踏み切る人間について
は自己責任であり、自分の判断で連絡を取っているのであろうから、他人が余
計なおせっかいを焼く必要性は無い。

----------------------------------------------------------------------


 ただ広告を出して待つだけでは、額が額だけにそう簡単に客は集まらない。
さて出版社はどうしたのであろうか。一番最初に行われたのはインターネット
などで文章を公開している人間に対する勧誘である。既に原稿が上がっている
為に良さそうには思われるが、この方法はあまり効果を上げなかった様である。


 近年増えている勧誘手段としては、文学賞を創設し協力出版する原稿を集め
ると言った物が存在する。賞応募の結果として集まった原稿に対し

「大賞は逃しましたが、協力出版と言う形での出版は可能です」

 と勧誘を行うのだ。私自身実験を兼ね、FortuneCLipでも連載していた"カワ
セミの住む川"と言う作品を投稿してみた。協力出版系の賞は他の文学賞に比べ
結果発表までの期間が短い事が一つの特徴であるかと思う。鉄は熱い内に打て、
やって来た客は他社に取られるな! という意思がちらほらと見える。投稿一
ヵ月後出た結果は準佳作。賞の結果と共に送られて来たのは「協力出版のお勧
め」と呼ばれる用紙とローン計算用紙、既に協力出版された書籍のリストであ
った。

「うわー。本当に来た!」

 そこに書かれていた値段はページ数100枚、500部印刷で76万円。投稿した原
稿の枚数が40枚程であった為、足りない60枚については書き足すという内容も
書かれていた。半分以上書き足して本にする??? 乱暴な話もあったもので
ある。

 郵便物が到着した数日後、出版社側から電話がかかってきた。丁重にお断り
をしたが、噂に違わず文章に対する誉め具合はちょっと出版してみようかなと
思ってしまう程、勧誘が上手かった。1回だけでは統計的にも判断材料にするに
は難しいと思い、私は調子に乗ってその後協力出版を行っている会社数社に投
稿を行ってみた。全く反応の無い会社、賞は受賞していないが、希望すれば短
編集に入れる事も可能なのでページ数分費用負担お願いする。金額は30万円!
 などという会社も存在した。無論全て断ったが、噂は本当だったのである。


 現在は以前に比べ乱暴な勧誘は少なくなったそうだが、(実際に思っていた
ほどしつこおくは無かった)勧誘の恐ろしさを考えると中途半端な意思で協力
出版系の賞に応募する事は止めておいた方が良さそうである。

 追加の情報としては、うっかり協力出版の賞を取り、形ばかりの賞金を受け
取った場合その原稿の出版権はその出版社の物となってしまう。くれぐれも自
信作は出さない方が? 賢明であるかもしれない。

----------------------------------------------------------------------


 協力出版とは一線を画するかもしれないが、dreambookclub http://www.dr
eambookclub.com/ と言うサイトにおいて、購入予約が100冊集まった場合書籍
化すると言うシステムが公開された。購入予約できるのは1人一冊のみ、協力出
版に比べるとかなり敷居が低いように思われる。あわよくば本を出版できるか
も??? そんな妄想を思い描きながら、ここでも実験を試みた。

 私は個人的にメールマガジンを発行し、購読読者数は約3000人である。決し
て少ない数では無い。dreambookclubにて原稿を公開し、メールマガジンの読者
及び自分のホームページにおいて告知を行ったのである。一冊あたりの単価は
739円、決して高くは無い。意外と買って貰えそうな金額である。告知は紹介ペ
ージなども作り、各メディアにタイミングをずらして行った。自分の日記に記
載を行った時が一番効果があり、一番効果があるはずのメールマガジンに掲載
を行った時は…… 殆ど効果は無かったと言っても良いと思う。予約をしてく
れたのはホームページの常連客のみである。経過をまとめると

 ホームページのアクセス        一日 100人前後
 固定客(日記などを見に来てくれる人) 一日  40人前後
 メールマガジン読者数(週1発行)       3000人
 
 購入予約された数               15人

 やはり無料が基本のインターネットの世界。お金を出してくれとお願いする
事が間違っていたのか。実際にdreambookclubにおいても購入予約がゼロの人間
や10冊以下の人間が大概で、100冊に到達する事は本当に稀な事であるようであ
る。考え方としては非常に面白いと思うが、実際に利用してみると購入予約10
0冊と言うのは恐ろしく高いハードルであった事が分かる。現在私の作品はまだ
公開されているが、個人の知り合い以外はまず購入予約を入れない事を考える
と、このまま書籍化される事無く消え去って行くのであろう。私の力不足とは
言え寂しい話である。

----------------------------------------------------------------------


 このコラムを書く為に半年ほど前から準備をし、用意周到に実験を繰り返し
ていたつもりでしたが、実際に文章化してみるとそれ程大した事をしていなか
ったなと思ってしまうのは何故であろうか。個人的には金輪際協力出版系の賞
に出す予定は無い。

 ここ1年ほどの間にオンデマンド出版と呼ばれる予約が入ってから1冊づつ刷
ると言う手法が用いられる事も少なくなくなった。先月文学メルマにおいて第
一回文学メルマ賞なるものが開催されたが、こちらにおいては何と既に有名な
文学賞を取った人間や日本ファンタジー大賞の最終候補に残った人間などが多
数応募を行っていた。たとえ1冊本を出しても後が続かなかったと言う事であろ
うか、私自身旅行記部門において”中学留学生的日記”が最終候補に残る事が
出来たが、賞を貰うまでには至ることが出来ませんでした。しかしプロ作家の
方々にコメントを頂き、非常にはげみになった。

作家の山川健一さんより
独特な旅の体験が記され、筆者の人柄の温かさが伝わってくるいい作品だった


旅行作家の素木文生さんから
まず、旅文学部門。いきなりナンですが、残念ながらレベルがけっこう低かっ
たと思います。しょうがないです。応募作品数も、小説の5分の1だったし、
「文章」よりも
「旅」とか「旅行」とかが好きな人がほとんどなんだから。中には魚のウロコ
もとらずに料理して出してきた人もいた。それはマズいですよ。せめて主語と
述語くらいは一致させないと。あと、「撮りっぱなしのビデオ」とか。

エッセイスト・角田光代さんから
作者の人の良さがにじみでている「中国留学性的日記」、ただひとつ、書き手
の主観という、一番大事なものがわきへよけられているのが残念でした。自分
の舌や目や肌がもっとも何かを感じた、オリジナルな言葉から、もう一度組み
立ててほしいと願ってやみません

文学メルマ 
http://www.melma.com/bungaku/index.html
より

 やはり、まだまだ修行が足りないようです。

 紙媒体ではなく、電子書籍としての公開も大分増えては来ているが、大ヒッ
ト作品で1000冊程度の販売である事を考えると、まだまだ販路としては少ない
と言えるのかもしれない。

 今週は何だか暗い話になってしまいました。さて来週は打って変わって明る
い話”ピンク・タンポポ”の予定です。どうぞお楽しみに!



 

 


ライン