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恥さらしの記憶

 みっとも無く言い訳をする訳では無いけれど、とにかくその日は疲れていた
のである。

 久しぶりの遠方への出張に重ねて深夜の作業。翌日が土曜日だから大丈夫だ
ろうと集中して予定を入れたのが今考えるとまずかった。翌朝、いつもどおり
の時間に娘が私を起こしに来たのだが、私は関係無いとばかり全く相手にしな
かったのである。

「ママ起きてよ!」

 暫らく騒いだ後諦めたのか、娘の矛先は旦那へと向かった。ラッキーとばか
りそのまま布団の中に潜り込み、再び深い睡眠へと入る。旦那を殴り、蹴り、
上に乗っかり娘の猛攻は続く。奏効している内に玄関のチャイムが鳴った。

「みきちゃん大変だよ。お化けがやって来たみたい。静にしていないと家の中
に入ってくるかも」
「それは大変! 隠れていないと」

 まだ小さいのでお化け関連の話には滅法弱い。玄関のチャイムの音は更に続
く。薄めを開けると娘は旦那の布団の中で息を潜めていた。しつこく何度も何
度も朝から不愉快だ。一体誰なんだろう? と思っても外を覗くような事はし
なかった。
 チャイムの音がようやく止んだ数分後、家の前にバスが止まる音がした。「
おはようございます」という幼稚園の先生の声が聞こえる。まさか、今日は!


「今日幼稚園ある日だ! 寝坊した!」

 親はお休みでも子供はそうでは無かったのである。パジャマ姿のまま幼稚園
バスにお詫びを入れ、慌てて娘に幼稚園の制服を着せる。来年からは幼稚園も
完全週休二日になるのだが、今年までは隔週で出勤日があるのであった。

「俺が自転車で送って来るから、急げばバスより早く幼稚園に着くはずだ!」


 朝食用にとおにぎりを娘に持たせ、家を送り出す。頑張った甲斐あり、結局
バスと同時刻に幼稚園へと到着。旦那は先生から何気なく「帰りも迎えに来ら
れます?」と嫌味を言われたそうである。

「いやーびっくりした」

 娘はと言うと「子供は起きたんだけど、親が起きなかったんだよ」と偉そう
に先生に説明していたそうである。チャイムを押してくれていた子供は「十四
回も押したんだけど起きないんだもん。困っちゃったよ」といたくお怒りのご
様子であった。

「うーん。油断をした私が悪かったのかもしれない」
「かも、じゃなくてお前が悪い」

 踏んだり蹴ったりの土曜日。しばらく近所の人間に頭が上がらなくなるなと
思う今日この頃なのでした。

[完]


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