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パパとご飯

 やって来ました二千二年!そして一月といえばお正月、お年玉。鏡開きも終り、ふと思い出した様に現在三歳になる娘のお年玉のポチ袋の数々を開けてびっくり玉手箱。何とその総額は四万円を優に超えていたのである。

「三歳の子供が!羨ましいねえ!」

 注意して中身を確認すると、入っている金額も考えられていて非常に面白い。特に娘に甘いおじいちゃんなどは、一万一千円などと大きなお札と小さなお札の両方をワザワザ入れてくれるのだ。これはお金は沢山あげたいのだけれど、一万円札を入れるとママが貯金してしまうから、という心遣いが含まれて居る様だが、これは甘い。私のケチさ加減はそういった心遣いの遥か上空、成層圏を突き抜けて行く。「それは私のよ」と見つめる娘に無言で千円札を一枚だけ渡し、残りを全て娘の手が絶対に届かない貯金箱へと仕舞い込んだ。

「はい。この紙で何でも好きな物が一つ買えるから、自分で買いなさい」
「残りの紙はどうなるの?」
「ここにしまっておくから、無くなったら又出してあげる」
「分かった!」

 早く忘れて欲しいと思いつつ、休日であったので、暇つぶしも兼ね、家族三人で近所のデパートへと向かう。今娘が欲しがる物と言えば大概千円で買える物である。大凡の予想ではアイロンで圧着して模様を作って遊ぶ、アメリカ製のパーラービーズを選ぶと思ってたのだが、玩具売場を歩き回って娘が選んだのは何とボアの付いた綿ウサギのお父さん人形であった。

「あんたビーズが欲しかったんじゃないの?」
「あのね、ウサギのママは居るけど、パパは居ないのよ。パパが居ないとウサギの子供達が可哀想だから」

 今娘が手にもっているウサギシリーズの人形は一匹だけで遊ぶことも出来るのだが、家族で揃えて遊ぶ事も出来ると言う親的には非常に迷惑な設定となっている。一匹辺りの金額は五百円前後と決して高くは無いのだが、家族全員等を買うとなると、決して馬鹿にならない金額がかかってしまう。

「もうシルバニアの人形は沢山あるから、ご飯の方にしなさい。別にパパが居なくても他の人形で遊べるでしょ?」
「やっぱりパパが居ないとね、駄目なのよ。寂しくなってしまう」

 ウサギ人形のパパとママの違いは、洋服がスカートか、ズボンかの違いだけである。本当はもっと違う部分があるのかもしれないが、素人目には全く見分けが付かない。女の子であるから仕方が無いと諦めている部分もあるのだが、現在人形はゲームセンターやファーストフード店にて手に入れた物を含めると、冗談でも誇張でも無く百匹を遙かに越えてしまっている。はっきり言ってこれ以上の人形数増は迷惑千番。私は娘の手から人形を強引に奪い取りこう言った。

「パパは居なくても大丈夫だよ。でもご飯は無いと死んでしまうかもしれないよ. ご飯はまだ1ヶしか持っていないのだから、こっちにしなさい」

「パパは・・・」
「パパは要りません!ご飯が大事!」

 と私がが連呼していると、頭上に旦那の拳骨が見えた

「お前何か言ったか?」
「いえ別に・・・」

 仕方なく綿ウサギのパパを買うことを了承する。が、やっぱりビーズも欲しい様だ。売場の中をウロウロ・ウロウロ、一番欲しいのはパパの人形なのだけど・・・

「分かった。じゃ、ビーズはママが買って上げるよ」
「本当に?ありがとう!」

 やった、やったと両手を振り上げながら、娘はは安心してレジへと向かった。首から下げた赤いキティの財布から誇らしげに千円札を取り出し、小さな手を大きく広げ、お釣りを受け取る。私はその後、自分のお小遣いの中からのお金でビーズのお金を支払った。

「ママ、紙終わっちゃったから、新しい紙頂戴!」
「後でね、後でよ」

 その後私が残りのお札をさっさと銀行に入れてしまったのは言うまでも無い。残りは貯金。将来の学資の一部にしようね。と建前上は思ったのだが後日急に車を買う事になり、手持ちの現金が無かった私は頭金の一部として娘の貯金の大半を使ってしまった。貯金の意味が分かる前に返却をしなければ・・・

「ま、こんな事どんな家庭でもやっている事さ!」

 自分がやられて不愉快であった事はすっかり忘れている。年代が変わっても結局親がやる事と言うのはあまり変わらない様である。

「ま、返すよ。そのうち、ね」





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