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横浜・ロイヤルウイング

 最近の唯一の趣味は相変わらず、オークションである。

 夜遅く、仕事が終わった後に飽きずにオークションサイトを巡回する。相変わらず狙っているのはチケット関連の商品である。今日も又偶然特売の情報を発見した。

 「これは!安い!!!」

 とにかく私は特売が大好きである。安いことはとにかく何をさしおいても素晴らしい事である。

 今回の獲物は、横浜・ロイヤルウイングの乗船チケットペアである。正規価格4000円が何と今回は破格の210円で出品されていたのである。
 出品者はこの価値をあまり知らないらしく、かなり弱気のコメントを寄せていた。

”良く分からないのですが、もし宜しかったらリスク承知で入札して下さい”と、

 しかし見る人が見れば、その価値が分かるので、こうした掘り出し物には競争者が多い。

 ”負けないーーーー。こいつは頂いた!!!”
 
 既にオークションの評価数は2桁を突破。今月は試験勉強等でストレスが溜まっている事もあり、”ストレス解消の為”と言い訳をしながら、かなり調子に乗っており、売られた喧嘩は大喜びで買うようになってきてしまった。10円単位で、刺して、刺されての戦いが続く。

 経験を積んできたお陰か、たまたま運が良かったのか、数十分の戦いの結果、見事送料込みの510円にて目的のチケットを購入する事が出来た。

 ”正義は必ず勝つ!”

 ロイヤルウイング?と知らない人も多いかと思うが、これは横浜の山下公園の隣の大桟橋に停泊している観光船の事である。景色を見るだけでなく、中では食事も取ることもでき、結婚式を行う事も出来る。

 単なる観光船とは言っても総工費800億円かかったという豪華船であり、搭乗するだけで一人2000円もの費用がかかってしまう。今回はその搭乗費用が無料になるというチケットだったのである。高い、と思われる人も多いかも知れない。が、しかしその価値は十分にある。
 チケットが無事到着したその週の土曜日、家族連れだって横浜の関内目指して出発した。ロイヤルウイングに乗るのは6年振りであろうか、非常に懐かしい。

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 初めてロイヤルウイングに乗ったのは今から丁度6年前、旦那と結婚する前である。

 折角のクリスマスだからちょっと贅沢に・・・と一人15000円(ワリカン)の大枚を払い船に乗り込んだ。ロマンチックな船の雰囲気にオシャレな生バンドに聖歌隊、新調した白いスーツが汚れないように膝の上に花柄のハナエ・モリのハンカチを置き、ちょっとはにかんだウキウキ気分で前を見ると

 「寝てる・・・」

 折角のクリスマスなのに・・・という事は本人の頭に無いらしい。眠いから、寝るので何が悪い、といった風情である。何度起こしても起きる気配は無い。仕方なく、その日のメニューはバイキングであったので一人で料理を取りに行き、寂しく食べ始めた。

 「うるせえんだよ。ずーっと仕事で忙しかったんだから仕方ねえだろ」
 
 寝言であろうか。怒りに口を振るわせながら料理を口に運ぶと、背後で外人のウエイターさんの笑い声が聞こえて来た。確かに他人から見ても非常に面白い構図であろう。今日はクリスマスなのである。このまま笑われたままでは終われない。手に持っていたスプーンを皿の上に降ろし、その後連続的に「起きろー起きろー」と大声で連呼し、小刻みに肩を揺する。

 「本当にうるせえな、分かったよ」

 すくっと立ち上がり、突然何をするのかと思いきや、料理のコーナーに行き、大量の料理を運んできて私の机の前に置いた。そして、「これでいいだろ」と言ってまたしても寝てしまった。何が一体どう良いのだろう???

 生バンドの演奏サービスも既に耳に届かない。もう怒りを堪えて料理を口に運ぶのが精一杯である。とにかく折角来たのだから元だけは取らないと・・・この人に怒るのは船を降りてからにしよう・・・

 この時一緒だった男性は、説明するまでもなく今結婚し一緒にいる旦那である。本人は6年前のこの事件?をちょっと悪かったなと思っているらしく、今回の横浜行きは面倒くさがらず、珍しく快諾してくれた。かくして電車を乗り継ぎ関内の駅へと急いだ。
 
 「何年も前のことをいちいち五月蠅いよ!」

 あんな屈辱一生忘れられる物か。

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 関内の駅は横浜駅から2つ離れた場所にある。関内には横浜球場や中華街、山下公園などの観光地と官公庁関連の施設が併設されており、非常に盛況な場所である。問題はそれらの施設が駅からかなり離れた箇所にあり、どこに行くにもかなり歩かなくては到達しない事である。目標は12:00のランチクルーズに間に合う事であるが、3歳の娘を連れた行程ではそれはどうも間に合いそうに無い。

 「つかれた・・・あしがこわれちゃうかもしれない・・・」
 「20分歩くぐらいじゃ足は壊れないよ・・・」

 根性無しである。旦那と私でおどしたり、すかしたり、仕方なく抱っこしたりと大桟橋を目指す。時刻は既に12:00を経過している。ランチクルーズには全く間に合わなかった様である。次は14:50のティータイムクルーズである。

 「予約はされていますか?」
 「いえ、してないです」

 今の時期は特に込み合っていないのか、予約無しで問題は無かった。お金を払い、チケットを受け取る。あとは船に乗るまでの2時間程の時間をどうするかである。

 ティータイムクルーズは飲茶コースとケーキ食べ放題コースが選択できるので、当然ケーキ食べ放題コースを選択する。食べ放題をするのであれば、お昼を食べるわけにはいかない。大桟橋を離れ、すぐ側にある山下公園へ向かいそこで時間を潰すことにした。山下公園といえばオレンジ色のパラソルを差したおばさんが売っているアイスクリームが有名である。娘はパラソルを見たとたん、アイスクリーム目がけて走り出した。

 「アイスクリームちょうだい!!!」

 この元気をなぜここまでの行程に生かせなかったのだろうか・・・

 「本当にお作りして良いのですか?」
 「は、はいお願いします」

 子供の発言に対して確認を取る、珍しい事である。大概の場合子供の発言に対して勝手に作ったり渡したりするするというパターンが多いからである。子供が受け取ったのにお金を払わない親は数少ない、子供に受け取らせてしまえば、お店の勝ち!といった所なのだろうか、アイスクリームやさんは元気な娘に大喜びし、アイスをカップ一杯盛ってくれた。冷たくさっぱりとした味わい。ベンチシートに座って時間を過ごす。こういうノンビリした時間は決して悪い気分がする物ではない。

 気が付くと、足下を複数の鳩が走り回り、餌をねだっている姿も微笑ましい。しかしお菓子など何も持っていないのである。仕方ないので道の途中で拾ったドングリを足で割って鳩にあげることにした。
 ドングリの茶色の皮から栗のような白い身を取り出し、砕いて鳩に投げる。食べないかな?と思いきや、以外と喜んで食べる。少なくとも塩味たっぷりのポップコーンよりは体に良いだろう。手元のドングリが無くなると娘は旦那と共に大慌てで公園内を走り回り、赤いバック一杯にドングリを摘んできては割、鳩にあげていた。本人相当気に入ったようである。

 14:50にようや船に乗り込む。ウエルカムサービスで剣の形をした風船と熊の形をした風船を頂く。乗務員が器用に風船をぐる、ぐると組み立てている光景はなかなか壮快である。子供達はこの無料サービスに大喜び。通常であれば1ケ500円程度かかる風船が頼めば頼んだだけ作ってくれるのである。娘は両手一杯風船だらけにして席についた。席の前には大きな窓が付いており、何気なく、ちょっと振り返るだけで横浜の景色を見ることが可能である。これは贅沢だ。

 「出航するよ!」

 船が動き出した。早速ケーキバイキングの始まりである。誰よりも早く駆け出し、大皿に5ケ程のケーキを並べ席へ戻ってくる。上品な甘さのケーキ。お腹がすいていただけにどんどん食べることが出来る。

 「20ケはいきたいね!」

 旦那は疲れたのか、ビールを注文していた。船内ではビール一杯750円!である。美味しそうに飲んでいるが、価格を考えるとあまり飲まない方が良いのでは無いかと思う。娘は顔をクリームだらけにして頑張っている。私も負けずに食べる。食べる。食べる。しかし当然限界があるので1時間ほどケーキを楽しんだ後は船のデッキの方に上がってみる事にした。こちらでもビールやカクテル(有料)を楽しむことが出来る。船の上空はあくまでも青く澄み、遠くにはベイブリッジやランドマークタワーが見えてきた。

 「うわーカモメが飛んできた!」

 昔はデッキでカモメの餌付けをやっていたことがあるのだという。フン公害が酷いので現在はやめているそうだが、その頃の影響でいまだにカモメが船の側に寄ってくる事があるのだという。

 風船の沢山は言ったカゴを持ったお姉さんがデッキにやって来た。楽しいショーが始まる。子供達は我先に風船を貰おうと夢中である。秋の冷たい風が流れる。2時間ほど航海しただろうか、船はあっという間に大桟橋に到着した。

 手を振ってロイヤルウイングを離れる。船が見えなくなる前にふと娘に質問をぶつけてみる事にした。

 「楽しかった?また来る?」
 「たのしかった、またきたいなー」
 「何が楽しかったの」
 「ふね!」

 旦那が笑顔で聞いている。ジョッキ一杯で酔っぱらったとは思わないが、旦那自身も楽しいクルーズであったようである。

 「クリスマスにでも来るか」
 「それは厭な思い出があるから勘弁。ま、またオークションで安く落とせたらね」

 日が落ちる前に、とそのまま家路へと向かった。久しぶりの横浜紀行。昔のような華やかなショッピングは無い物のそれなりに楽しめる一日であった事は間違いない。
 
 「ま、こんな日がある日ぽっと幸せだったなと思うんだろうね」
 「そうかね」
 
 是非皆様も横浜に来ることがありましたら乗船してみて下さい。贅沢なノンビリした時間。くせになるかもしれませんよ。

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