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書評 2001/09

現在”インターネットで本を購入”というビジネスモデルが各社によって確立され、売り上げを伸ばしている。本を読者に見やすいように並べる”通常の書店”に比べ、”インターネット書店”は自分の欲しい本が検索処理などにより簡単に見つかる所が大きな魅力である。そして本を選ぶ一つの基準として、”書評”なるものが書かれるようになってきた。簡単に言うと、その本を買った人が書いた感想文である。購入前にこういった物を読むと購入の際非常に参考になる。私自身、皆様に隠れていくつかの書評を書いてきている。簡単にご紹介すると

Tripwire for Linux  オライリージャパン社
http://www.linux.or.jp/bookreview/BR51-2.html#issue3
Apache 拡張ガイド (上) サーバサイドプログラミング, (下) API リファレンス  オライリージャパン社
http://www.linux.or.jp/bookreview/BR41-1.html#issue4
fml メーリングリスト管理  オーム社
http://www.linux.or.jp/bookreview/BR38.html#issue4
Linux ネットワーク入門 ナツメ社
http://www.linux.or.jp/bookreview/LinuxNetworkNyuumon.html#issue3

どれもパソコン系である為、私自身は分かりやすく書いたつもりであるが、少々難しいかもしれない。
これらはどれも出版社からの依頼を受け、出版前に本を頂き書くと言った形式のものであるので前述した書評とは少々違うかもしれないが、私自身は時折プロの編集者の方に自分の文章を批評してもらう機会を持つことが出来、出版社側も無料で書評を書いて貰えるというメリットが相互にある為、なかなか好評に行われているようである。

今週は私が1ヶ月以内に購入した本を中心に、簡単な書評をご紹介出来ればと思う。もしも、あなたの通勤電車のお供の参考になれば幸いである。

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大地の子 山崎豊子 ISBN4-16-312270-2 文芸春秋

NHKでもドラマ化された小説。発売時はハードカバーで3冊組であったが、最近は文庫版(こちらは5冊組)も発売され、非常に手に入れやすくなった。

筆者山崎豊子が1986年に”二つの祖国”という小説を書いたのをご存じだろうか。こちらは第二次世界大戦下のアメリカにおける日系人の差別や苦悩を描いた作品である。その作品から取材を6年間続け、書かれたのが今回ご紹介する”大地の子”である。この作品は中国における日系人の悲哀を描いた物である。現在中国においては何かに付け日本に対し”謝罪””謝罪”という言葉を連呼して来るが、実際戦時中日系人はこうした迫害を受けたのだということが、容赦のない言葉の表現によって描かれている。

一冊を読むのは非常に長く感じるが、それだけに内容が濃く、人間の醜さという物が、よくある性格の悪い一人の人間により演じられるのではなく、人間の集団としての醜さ、恐ろしさとして描かれている。日本人として知っておくべき知識がぎっしりと詰め込まれている。東南アジアで仕事をされている方、特に中国関連で仕事をしている方には読んでいただきたいと思う。

最終話、対立していた女性との和解。

「私今まで、あなたに対してひどいことをして来たけれど、これで許してくれるかしら」

人間は最後まで悪人では無いのだなと思う一方。涙を禁じ得なかった。作者はもつれていた糸を、あれよあれよと解いていく。最後の数ページは息もつかせず、一気に読ませて行く、そして親子の和解によって主人公から漏れた言葉、

「私は、この大地の子です」

この最後の言葉の重さを是非3冊読んで感じて頂きたい。お勧めである。

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音楽のエゾテリスム ジョスリン・ゴドウイン作 高尾謙史=訳 ISBN4-875023553

エゾテリスムとは全く聞き慣れない単語であるが、これは”宗教的思想”という意味である。
この本は今から2世紀以上前、ロマン派の音楽が栄えし頃から、現代に向けて音楽の歴史を辿っていく”検証的”内容の本である。

内容は至って濃く、”宗教的思想”というよりも”物理的思想”を多く感じた。私が物理学を学んでいた頃教授に言われたのは、”神はより美しい物を好む”という言葉である。物理学の方程式を人に理解しやすく分解していくのはそれらが理由であると。

しかしこの本は違う。”神が最善を選ばない余地などありえない”とばっさり切り去り、より現実的に”音楽”を論評していく。槌と鉄床のぶつかり合う音から、音を出すための黄金の重量比、36:64:81:144(各項を2乗した値)をピュタゴラスが算出する辺りからの内容は非常に興味深い。オーケストラの音が何故心地よく聞こえるのか、低い音と高い音の関係、上げればキリが無くなってしまうが、音楽の歴史を客観的な根拠ではなく、一つ一つ検証しながら証明して行くのである。音楽関係のは尚更であるが、単なる読み物としても非常に面白く興味をそそられてしまった。

文章量的にも小説などとは違い、一日二日で読み終わるといった量では無いし、ノンビリ時間を取って1ページ、1ページ落ち着いて読んでいただきたい本である。対象としては音楽関係の方はもとより、雑学や教育関連の書籍が好きな方、会社の行き帰りにちょっと為になる本を読んでみたい方にお勧めである。又個人的にには文章的に難しい言い回しや専門用語は少ない事もあるので、まだ進路を決めかねている高校生の方々にも読んでいただければ、何かの刺激になる事は間違いないと思う。

ちょっと勉強してみようか。ああ、そうだったのだ。とそう自然に思わせてしまう。非常に深く、飽きさせない本でした。

本日発売日。

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深夜特急1-6 沢木耕太郎 新潮文庫 ISBN4-10-123510-4

1巻に説明があるのだが、深夜特急とはトルコの刑務所に入れられた外国人受刑者の隠語であり、”脱獄”するという意味である。主人公は現実の世界から抜け出そうと、香港からバスに乗りマカオ、ヨーロッパを歴訪していくという話である。

読むキッカケとなったのは田口ランディ著の”忘れないよヴェトナム”に書かれていた話からである。

「深夜特急という小説を読んで旅に出たくなったんです」

人の人生を動かした小説というのは一体どういった物なのか。実際単行本で発行されている為手に入れるのはさほど難しくはなかった。一冊を手に取った後はあっという間に6冊読み切ってしまった。簡単な内容としては、東京で文筆業を営んでいた作者が仕事ばかり重なっていく日常に耐えきれなくなり、イギリス中央郵便局にて、「ワレ到着セリ」という電報を打つという目的の貧乏旅行に出るという話なのだが、ここまで聞くと、

「猿岩石と一緒じゃん!」

という人も多いかもしれない。著者もそれらには多少触れているが、やはり”上手い文章を書く”人間の旅行記はそれらとは全く違う。本当に自分がその町に立っているのではないかという錯覚を思わせる程の文章表現なのである。自分の好きな都市の巻だけ読むもよし、全巻読んで、6巻のオチに大笑いするも楽しいだろう。

日本が誇る映画俳優”高倉健”も大絶賛のこの本、仕事が忙しくてなかなか旅行にも行かれない人、”次はどこへ行こう!”と悩んでいる人にお勧めである。文体もきつくなく非常に読みやすい本である。

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しろうとでも一冊本が出せる24の方法 横田濱夫 祥伝社 ISBN4-396-31269-5

文章を書く人なら誰しも”本を出したい!”と思うものではないだろうか。そういった人に対して”持ち込み”のノウハウ等を説明した本である。この作者はよくある”文学賞”を取って作家になった人間では無い。どうやって自分が本を出すことが出来たのかを包み隠さず教えてくれる。この方法を使用して、実際持ち込みに成功したという話もインターネット上では飛び交っている。”本当かな?”と購入したのがきっかけである。

持ち込みの仕方、原稿が本になって行くまでの手順。そして気になる印税の話など、笑い話を混ぜながら展開していくあたりは非常に面白い。個人的な意見としては、確かにこの方法で一冊本を出すのは可能であるような気がする。現在メールマガジンを発行している人、発行しようと思っている人。そしていつかは・・・と思っている人にはお勧めである。

又それら出版に興味が無い人は、この著者が書いているはみ出し銀行マンシリーズの小説はどれも面白いので手に取ってみたらどうかと思う。大体単行本が発刊されると私は大概手に取る。読みやすく「損したな・・・」と思わせる事はまず無い。

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書評いかがだったでしょう?あなたの本は見つかったでしょうか?
来週は久しぶりにコラムです。題は”オサマ・ビン・ラディン”です。どうぞお楽しみに







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