ベビーカー現代論

「池田さん。友達に赤ちゃんが生まれたんですけど、
お祝いに何を贈ったらいいですかね」

 年に何度か、こうした質問を受ける事がある。おそらくこう言う人は生まれてからそう何度も「赤ちゃん」と面と向って接した事が無い人だと思う。こうした場合私は大概こう回答する。

「奇を衒ってベビーカーとか買わないほうが良いですよ。おそらくA型とB型がある事も知らないでしょ? それなら赤ちゃん服、それも八十-九十センチ位の服を買うのが一番無難じゃ無いですか」
「ベビーカーって色々種類があるのか??? AとBってどう違うんですか?」

 一々説明しているとキリが無いので、こう言う時はまず赤ちゃん服の方に説明を移るのが普通だ。私自身出産をするまでベビーカーに種類がある事など全く知らなかったし、第一子を出産した際もベビーカーに子供を乗せる事は嫌いだった。理由としてはベビーカーに子供を乗せると言うのは親よりも子供の方が偉そうに見えて、ベビーカーを押す作業が母親にとって大変な仕事であるように思えたからだ。

 だから娘をA型ベビーカーには全く乗せなかったし、B型ベビーカーもお義理程度に乗せただけで、新品同様の状態で知り合いにあげてしまった。自分で歩けるのならば、自分で歩くべきだと私は思った。無論娘は全く歩かず、第二子が生まれるまで娘の移動手段は旦那の抱っこに頼りきっていた。

「池田さん。A型ベビーカー貸してあげるよ」

 昨年出産をしたママさんが思いがけず高級A型ベビーカーを貸してくれた。普通に購入すれば五万円以上するというブランドベビーカー。普通のベビーカーとどこが違うのだろう。ブランド好きな私は第一子出産時の拘りを呆気なく捨て、大喜びで出産後ベビーカーを取りに行った。

「これですか。高級ベビーカーは」
「全然使わなかったのよね……」

 普通A型ベビーカーはネンネの時期、つまり産後二ヶ月から七ヶ月位まで使うのが普通である。その後は軽量のB型ベビーカーとなり三歳から四歳前後まで使う事が多い。使用頻度は低く、新品同様で売りに出される事もシバシバ発生する。

 ありがたく借りてきたベビーカーに赤ちゃんを乗せる。程よい揺れが心地よいらしく、泣くような事は無かった。それからの数ヶ月間。週に一度はベビーカーのお世話になり、三十分程の散歩を欠かさないようになった。娘をB型ベビーカーに乗せていた時は乗せたとたんに泣いて騒いで全然乗らなかったのに……やっぱり高級品は違う! 取ってつけたCMのように思ったが、それは全くその通りであったのだ。

 赤ちゃんが六ヶ月となり、B型ベビーカーを買わなくてはいけなくなった時、私は迷う事無く借りていたA型ベビーカーと同じ会社のベビーカーを選択した。定価は四万円以上。高いが、必死になって安い店を探す。物によっては一万円以下で売られて居るのに、何故ここまで値段が違うのだろう。不思議に思うのは普通の人間の感想であろう。

 A型ベビーカーとB型ベビーカーの違いは車輪の大きさ及び形状の違いである。A型の方が車輪が大きいし、安定している。しかし近年のB型ベビーカーでも背もたれが百四十度下がり、生後二ヶ月から使える物が販売されている。A型=新生児からと言う方程式は崩れつつあるのだ。考えてみれば生後七ヶ月を過ぎても寝る時は出切れば背もたれを倒した状態で眠りたいだろう。と考えた配慮なのだろうが、何故今まで無かったのだろうと思う程、これはこれで使ってみると非常に便利な機能である。

 又実際に赤ちゃんを乗せ安いベビーカーと、高級ベビーカーを比べてみると回転半径が全然違う。高級ベビーカーの方がサイズは同じなのに軽やかに簡単に曲がってくれる。又シートも触ってみると全然違う。高級ベビーカーは「エッグクッション」なる振動を吸収してくれる特殊マットが採用されており、ガタガタ揺れても大丈夫なようになっているのだ。良く「家の子はベビーカーに乗らない。どうしてだろう」と言った意見を聞く事があるが、やはりそれは選択したベビーカーの性能によるものであったのかもしれない。

 最近はベビーカーの後ろに「バギープラス」なるベビーカーに乗らないお兄ちゃんやお姉ちゃんを立たせて乗せる補助器具なども販売されている。価格は五千円から一万円程度。母親がベビーカーを押してさえ居れば、カラカラ車輪が回って家族三人移動ができる。確かに便利なアイテムだが、「バギープラス」自体が重く販売店が限られている事などから、街中で見かける事はあまり無いのが現実だ。

 その他ベビーカーにつける玩具などにも流行がある。単純にボードに音が出る玩具が付いている物から携帯の形をした物、持ち手のハンドル自体が全て玩具になる物など、結構いい値段で販売されている。ベビーカーに乗っている子供は何度か遊ぶ内に飽きるのか時折しかそう言う玩具では遊ばないが、公園などで赤ちゃん友達に会った際、人の玩具は良い遊び道具になるようである。

 オムツメーカーなどがシールを集めると全員にベビーカー用プレゼントなどと言うイベントをやっている事もあるが、無理して高いオムツを買いシールを集めるよりも、オークションなどを利用して安く手に入れたほうが楽である。おそらくは大量にオムツを使う病院関係者が出品しているのだろうが、然程苦労する事無く、数百円単位の安い金額で結構数出品されているのを見つけることが出来る。

「え、でも家の子ベビーカー乗らなかったよ」

 高級A型ベビーカーを借りた家の奥さんはあっけらかんとそう言う。乗る乗らないはやはりもっと複雑な、赤ちゃん個々の理由がありそうだ。ただ色々聞いた傾向によると最初からA型ベビーカーに乗っていた赤ちゃんはすんなりB型ベビーカーに乗るようになるが、そうでない赤ちゃんはぐずる傾向があると言う事だろうか。ベビーカーよりママの胸。勿論そちらの方が居心地が良いに決まって居るのだろうけれど。

「ベビーカーは赤ちゃんの車です。上手に扱ってあげて下さい」

 第二子を出産し、ベビーカーの有り難味を肌で感じてようやくこの言葉の意味が分ったような気がした。確かに抱っこより楽だし、腰に負担も少ない。ベビーカーを押すのも馴れさえすれば苦にならなくなってきた。A型ベビーカーからB型ベビーカーへ。我が家の赤ちゃんも順調に成長を続けている。