アイスティに夢中

 暑い日が続くと冷蔵庫の飲み物が気になるようになる。

 我が家ではペットボトルのジュースを買う習慣が無い。買うのは紙パックの野菜ジュースに牛乳。後は旦那用のビールを少々だろうか。後の飲み物は大概手作りし、買う事は外に出た時以外殆どしない。

 理由としてはお金が勿体無い事と、作った方が美味しいからだろうか。家族別のメニューとしては、赤ちゃんと娘用には麦茶をお湯出しで、旦那にはアレルギー症状に良いと言われる凍頂ウーロン茶を用意するようにしている。

「みきはお茶よりジュースがいい!」
「ジュースは駄目。虫歯になるかもしれないから」

 幼児期の飲み物管理は良い永久歯を生やし、虫歯になりにくいようにする為に大切な事である。とは言え話し合いの結果、娘には一日一回だけジュースを出す事にしたのだが、週の半分も娘はジュースを飲んでは居ない。飲むとしてもノンシュガーのリンゴジュースか見るメークを使った牛乳ベースの物だから食欲や体調に影響する事は少ない。私の弟は小さい頃からお茶ばかり飲んでいたお陰か大学を卒業し就職した今になっても虫歯は一本も無い。身近な例を参考にする迄も無く、甘い物を飲む習慣が無いと言うことは、歯磨き習慣と同じ位、良い事であると思う。

 さて、一日家に居る私としては何を飲むかと言うのは非常に重要な問題である。朝は麦茶に昼はオレンジベースの野菜ジュース。パソコンに向っている時はアイスティを飲むようにしている。以前はコーヒーが多かったのだが、一日二杯紅茶を飲むと風邪を引かないと言う話を聞き、断然紅茶派となった。暑い日は冷たく、寒い日は温かく。夏の季節と言えばやはりアイスティーが欠かせない。

 余計な事だが、旦那と私は若かりし頃喫茶店でのバイトを経験している為、殊アイスティに関しては口が肥えている。以前スーパーで水出し紅茶の元なる物を買ってきた事があったが、一回作っただけで、その後誰も飲もうとはしなかった。

「いくら簡単でもまずいと作る気にならないよね」

 どうせなら美味しい物を作りたい。夜の片付けをしながらアイスティを仕込む。茶葉はアールグレイを使用し、熱湯からティーメーカーを使用し濃い目に出した後はポットに大量の氷を入れ急激に冷やす。冷えたら溶け残った氷を取り出し冷蔵庫にて一晩じっくり寝かせる。寝かせないで即飲むとどうも味が若くて落ち着かない。喫茶店でも何故翌日のアイスコーヒーを前日に作るのか悩んだが、作って見ると良く分る。味が断然違うのだ。

「明日まで飲んじゃ駄目だからね!」

 とは言え作ったその場で無くなる事も少なくない。若い頃は旦那がウエンジウッドのアールグレイをプレゼントしてくれ、更に美味しく入れる事が出来たが、ここ数年はそうした話は全く聞かない。「美味しいアイスティを入れるためにはどうしたら良いだろう」ある日の事だ。デパートでカラカラベビーカーを押す私の耳に紅茶専門店の売り子のこんな声が耳に入った。

「美味しいアイスティの入れ方、ご紹介しています!」

 アイスティの入れ方なら知っている。とは思ったが興味があったので足を止めた。この紅茶専門店は全国展開している有名店で、フレーバーティなどが有名だ。私も赤ちゃんの内祝いにこの店の紅茶を何点か選んだ。とりあえず水出ししたというアイスティを試飲。種類はビタミンCが多いととかく有名となったローズヒップティである。赤い液体が何とも見た目エキゾチックで、飲み口も優しく香りがしっかり出ている事に驚いた。

「これは昨夜入れたのですが、こちらがお湯出しです。茶葉に合わせて入れ方を変えてみました」
「アイスティと言えばアールグレイじゃないんですか?」
「他の葉でも美味しいアイスティは作れますよ。今年は是非試してみて下さい」

 ふむふむ。こちらの香りはキリッと筋が通り個性が出ている。私が出す紅茶はこちらであろうか。専用ポットを使って出す方法を紹介した冊子を受け取り中身を確認する。入れ方、茶葉にはこだわってもポットは百円ショップの安いもので良いと思って居る私としては入れ方に興味はあったが、一つ千八百円のポットを即買いする勇気は無かった。

「高すぎ。もう少し安くないと」

 プーさんのポットでも千円も出せば買えるのに。あれは高すぎる! と思いつつ家で冊子を何度も確認する。水出しの方法はフレーバーティに向いており、十グラムの茶葉を専用ポットに入れ常温で一晩置くと出来るようだ。簡単な上に茶葉の量も少なくて済むと言う利点がある。以前軽井沢で水出しコーヒーと言うのを飲んだ事があるが、あれはコーヒーに一滴づつ水を垂らし抽出させていたが、紅茶ではかなり違うらしい。

 お湯出しの方法も私が今までやっていた方法と少々違う。使用する茶葉は水出しの倍の二十グラムでまず沸騰した五百CCのお湯を一気に茶葉に注ぎ、三分間放置。その後茶葉を取り除いて水を三百CC注ぎ完成一リットルとなるように氷を追加する。何故水を追加するかについては温度を効率よく下げる為では無いかと思う。手順さえ間違わなければ、アイスティ初心者にありがちな失敗。白濁するクリームダウン現象は起こらないと言う。

「欲しいなあ。美味しいのできるのかなあ」
「ママ買おうよ。きっと楽しくなるよ」

 悩みに悩んだ末、ボーナスが入った事も有り専用ポットにスプーン、フレーバーティを買った。冊子を参考に早速アイスティを入れ、旦那に持って行く。さてどんな感想をもらえるのだろうか。

「どう?」
「どうって言われても……」

 不味くは無い。でも別段特徴がある訳でも無い。と言う事なのであろうか。

「又変な物にお金を使って! と思ってない?」
「思ってないですよ。うん。ごちそうさまでした」

 この入れ方はイマイチであったのか。とりあえず現在我が家の冷蔵庫には新品のポットがひっそりと存在感薄く鎮座して居る。寒い日が続いただけ、これから夏に向けて活躍する。かもしれない。ちょっと失敗した事を多少自覚しながらも、購入者の責任としてアイスティを飲みつづける今日この頃である。